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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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終わりなき塔

 忍び込んだ塔は特に警備が厳重というわけではなく、サンタクララは労せずに階上を目指していく。


 この塔は方形だ。一つ一つのフロアはそれほど広いというわけではないが、上下につながる階段はそれぞれフロアの対角線の両端にあり、階を上がるごとに反対側への移動が必要だった。


 各階にはそれぞれ祈りの場所があった。

 一体、建設にどれだけの時間をかけた建物なのか、各階の礼拝堂はそれぞれ意匠(デザイン)が異なり、多彩な様相だ。


 ここは幾重にも積み重ねられた寺院なのだとサンタクララは気付く。そして、どこにも人影はない。


 最上階には恐らくこの街で最も重要なアイテムがあるはずなのに、警備などはない。


 黒ずくめ、顔さえも殆ど隠した盗賊としての完全装備――気合が空回りしたかのようで、サンタクララは自分に課していた警戒モードを解く。何度も階段を(のぼ)った後、とある階の礼拝場で、祭壇前の長椅子に腰を下ろした。


 口元を覆っていた布を下げ、息を吐く。

 もうどのくらい階を上がったのか、サンタクララには分からなくなっていた。


 ――だが拍子抜けだな。

 手に持っていたメダルに目を落とす。中心が光り輝いており、つまり――メダルは真上を指していた。




 ――いや、待てよ。まさか。





 サンタクララは妙なことを思いついてしまう。果たしてこの塔の最上階はあるのか、と。最上階は塔に入る前、見上げた先には見えなかった。



 そこに人が辿り着けるのか、と。

 到達不能だからこそ、ひょっとして警備は薄いのではなく。



 ――必要が、ない?

 何てことだ、俺としたことが。



 思わず立ち上がるサンタクララ。


 だが。

 『血染めの掌』が目の前にある――そのモチベーションでサンタクララはかなりのフロアを後にして来た。



 ――もう、今となっては下ることさえ。

 次こそは最上階かも知れない。



 サンタクララはずっとそう思って進んできたが、まさか最上階(それ)が無いとは。



 ――考えもしなかった。

 懐から一枚の紙を取り出し目を落とす。



 ――あの坊やがこれを。

 読めれば何かが分かったのかも知れない。


 紙片は、サンタクララがとある貴族から盗んできたものだ。

 その伝承は不確かだ。だが、(かつ)てこの紙片は血染めの掌と一緒にあったものらしい。


 サンタクララには読めず、所有していた貴族にも『血染めの掌』という単語しか読み取れなかったようだ。


 ――万能の話者、か……。

 ウードの持つ加護は伝説級だが、未知の文字を「読む」ことは、出来ない。話者は、聞き取り、話すだけだから。


 ――とにかく。

 進むしかあるまい。


 もうこれしか道はなく、何よりサンタクララには『血染めの掌』を入手する以外の道が見通せないのだ。


 積年の思い、簡単に折れたりはしない。

 ――()めるなよ。



 精霊なのか、他の何かなのか、超然たる存在に悪態をつくと、歩を進め次の階段に向かうサンタクララ。



 その時。

 『――――――!』



 誰かの、何かの叫び声のような音。

 やがてサンタクララの目前、二人分の――光。



 ――な、何でもありかよっ。




 「ここは――?」

 黒刀を携えたガウ。



 「わ、分からない」

 彼女に寄り添うように、隻腕(かたうで)の少年。



 「あ」

 「ああ」


 サンタクララと目が合う二人。



 『ごめんねウード。その人が、あんまり必死だったから』

 ウードだけに聞こえる言葉。


 「何か、困ってるんですか? サンタクララ、さん」

 少年のその声に、苦笑混じりに。



 「や。実は……」

 サンタクララは精霊に朧気(おぼろげ)な感謝を抱きながら口を開いていった。

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