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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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どこか別の場所で

 薄暗い建物の中に立っていた。

 レンカは目を開く。

 途端に、何か違和感を覚えた。


 それが何だろうと考えるうちに彼女は気付く。

 高いのだ――視点が。


 じっと両手を見つめてみる。見慣れた自分のそれではない。ふと気付いて横にあった鏡を見て――レンカは息が止まるほど驚いた。


 そこに映っていたのは見知らぬ大人の女性。少なくともレンカの記憶にはない。が、面影はある、ような気がした。


 レンカが身体を動かす。すると、鏡の中の見知らぬ女性も追随。

 ――ま、まさか。

 瞠目(どうもく)するレンカ。


 ――これが、あたし? 成長したあたしってことなの?

 鏡に近付いてまじまじと顔を見る。道理で面影があるはずだ。これは他でもない、大人になった自分の姿なのだから。


 ――凄い現実感、だけど。

 レンカは少し前から――いや、実はかなり最初の段階で――これが夢だと気付いている。


 ただ、今まで見たことのないタイプの夢でレンカは戸惑っていた。

 と、建物の扉がやや乱暴に真ん中から開かれた。途端に外の光が入り込んでレンカは顔をしかめる。



 入ってきたのはローブを(まと)った若い僧侶風の男。何故かひどく疲れていて、レンカを見つけるなり大声を張り上げた。



 「こ、ここにいらしたのですか院長(・・)! さあ早く。患者達が待っています」

 言うなりレンカの手を取り、どこかへと引いていく。


 レンカは男の有無を言わさぬ切迫感に気圧(けお)され、手を引かれるまま、黙ってついて行く。


 レンカのいた部屋は別の大きな部屋に直接つながっていた。間にあった仕切りで見えていなかったが、隣の部屋に入ってレンカはここがどういう場所か理解した。


 そこかしこから聞こえる(うめ)き声。

 ベッドとベッドの間を白衣を着た薬師(くすし)達が(せわ)しなく通り過ぎていく。


 広い部屋のはずだが所狭しと並べられたベッドが埋め尽くしていた。横たわっているのは屈強な男が多く、次いで子供、女性。病気の者はおらず、(みな)――怪我人だ。


 ――これは!

 「日に日に、隣国との戦争は激しくなるばかりです」


 先ほどの男の嘆き。

 「さあ院長、彼らを」


 男に促されレンカは一つのベッドの前に進み出る。

 兵士が横たわっており、顔の半分に包帯が巻かれ血が滲み、全身にも斬撃を受けて出来た怪我が無数につけられている。


 ――この人を、あたしが治すの?

 あまりの怪我の具合に思わず男を振り返るレンカ。だがそこにあったのは、やってくれると信じて疑わない信頼に満ちた顔だった。


 ――ええと……。

 父親に受けた回復魔法の手(ほど)き、それは。



 対象の、怪我をする前の姿をイメージすること。

 そして対象の、怪我からの回復後をイメージすること。


 受傷前と受傷後――二つのイメージの「差」が小さければ小さいほど良い回復魔法になる、と父親は言っていた。


 ――とにかく。

 やるしかない――覚悟を決めてレンカは苦しむ兵士に手をかざす。






 手に魔力を集中させる。部屋の中は魔力が濃いのか、あっという間にレンカの手に力が満ちていく。

 ――あれ?

 おかしい。

 いくら何でも簡単に集ま(・・・・・)りすぎる(・・・・)。どれほど魔流が安定していようとも、この量の魔力を操作した経験などレンカにはない。そもそもの技能(スキル)が――足りていないはずなのだ。



 だが今、普段からはあり得ない量の魔力をレンカは(ぎょ)している。



 ――これなら。

 受傷前と受傷後、二つの「差」の、少ない。



 ――イメージを!

 レンカの手から漏れ出す真っ青な光。



 やがて解き放たれた魔力、その圧倒的な量。

 男を包み込んだかと思うと、特に怪我のひどい箇所には小さな光の柱のようなものが幾つも立ち(のぼ)る。

 光はすぐに収まり、後には先程とは打って変わって楽になったような表情の兵士。


 「おおっ」

 「ど、どう――かしら」

 レンカの目の前、早くも兵士が身体を起こす。






 不思議そうに自分の怪我をあちこちと確認する――のだが、果たしてどこにも怪我を負った箇所はなかった。

 「あ、あぁ……」

 言葉にならない兵士。



 レンカ、にこやかにベッドを離れる。

 「お見事。流石です、院長」




 さあ、この調子で行きましょう、と男。

 どうして自分はこんな所にいるのか、なぜ大人の姿なのか、ここはどこなのか、夢なのか、現実なのか。



 ――考えるのは後だ。

 レンカは片っ端から怪我人を癒していった。

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