とある町、修練場
逗留している町にあった修練場を借り、ティアナ達はマルドゥムに稽古を付けてもらうことになった。
先の獣人を撃退した一件から、マルドゥムを見る皆の目が変わっていた。それは尊敬の念か、ある種の――畏怖か。
ティアナだけが修行する予定だったのだが、折角だからと他の二人――元軍人のクラスト、リンクスの元弟子ユーザーン――も鍛えることになったのだった。因みに、魔法使いのケアは見学。
「まずは構えを見せてもらおうかな」
修練場の真ん中で三人を前に腕組みをして、マルドゥム。
クラストは斧だ。腰だめに真っ直ぐ中段の構え――今さら何を言うこともないとマルドゥムは内心思う。
ユーザーンはマルドゥムと同じ片手剣。片手でこれも中段の構えだが、明らかに腰が入っていない。彼は剣を自分の身を守る武器というより、自らを傷付ける物のように捉えているのがその表情からも見て取れた。
そして。
――おお。
幅広剣を構えるティアナ。
両手で持ち、他の二人と同じ構え。
思わず顎に手をやり、思案顔になるマルドゥム。
――中々、サマになっているじゃないか。
マルドゥムは嬉しいような不安なような、座りの悪い感情を味わう。
軽すぎる――町の武器屋で片手剣を持ったティアナの感想はそれだった。娘があまりに軽さを言うので、マルドゥムは試しに――半ば冗談で――持たせたのが幅広剣だった。
「うん。やっぱりこれがしっくりくる」
修練場。ティアナは満足そうだ。
「では、振ってみようか」
三人は思い思いに武器を振る。
クラストの斧からはマルドゥムも思わず身震いするような覇気を感じる。近付くもの、全てなぎ払うようだ。
ユーザーンの振る片手剣――まあ、まずは剣との付き合い方からだな、マルドゥムは苦笑する。
ごおっ。
確かに幅広剣はその剣圧、剣風ともに派手で力感がある。
だがその実、見てくれだけで攻撃力は高くない。何より、こんなにもモーションのデカい剣などかわせば良いだけだ――マルドゥムはそう思っていた。
今のいま、までは。
「どう、かしら?」
ティアナが剣を振る度、空気が切り裂かれる。
マルドゥムはどう避ければいいのか、咄嗟に分からなかった。致命傷は受けないだろうが、幾らかは斬られるかも――それ程、ティアナの振る剣は乱暴で、全てをねじ伏せるような太刀筋。
「あ、ああ。まあ、良いんじゃないか」
「ほんと?」
――もし剣の振り方、力の入れ方を本格的に学んだなら。
とんでもない剣士になるかも知れない。
マルドゥムは複雑な気持ちでわくわくする。
今までマルドゥムが出会ったものの中でも屈指の才能。
――まさか、自分の娘を育てることが出来るだなんて。
「よし、今日はここまで」
一通り三人の資質を見極めたマルドゥム。
ティアナはラスト一撃に渾身の力を込めて振り下ろす。
今までで最大のうねりを上げ、埃を巻き上げ、幅広剣は修練場の床のすぐ上でぴたりと止まる。
「ティアナさんてもう一人前の剣士みたいね」
見学していたケアが素直な感想を洩らし、マルドゥムも心の中でそれに同意した。
「そ、そう? 何だか照れますね」
全く息を乱さず、ティアナは剣を鞘にしまう。
――思えば。
娘の顔をまじまじと見つめてしまうマルドゥム。
――リンクスさんを探しに来なければ、娘のこの加護に気付くことは、一生なかったのかもな。
マルドゥムは見逃さなかった。
ティアナの瞳に小さな、しかし確かな――火花のような。
緑の光が煌めいたことを。




