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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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リンクスの勝算

 本格的な夏を前に、カザイアでは既に夜でも蒸し暑い。


 転移(ジャンプ)の魔法を起動し、(カザイア)の外で再物質化したリンクスは今、軽い胸焼けのような症状に暗がりで耐えている。


 転移後はいつもこうなのでリンクスは慣れているつもりだったが、魔法の使用自体が久し振りだったためか、いつもより強めの不快感。



 ――私も歳だな。

 やがて症状が治まり、恐る恐る立ち上がるリンクス。


 視線の先、遠くカザイアの大門、()かれている一対(いっつい)篝火(かがりび)が見えた。どうやら魔力の蓄積が充分だった為、リンクスの予想よりも遠くに()べたようだった。


 彼はなるべく気配を消して街から遠ざかる方向に歩いていく。

 ざりりと靴が踏みしめる砂地の感覚。頬をなでていく生(ぬる)夜風(よかぜ)


 いま食糧の持ち合わせもなければ水もなく、分かっているのは最寄りの町までの方角だけ。



 ――それでも行くしかない。

 リンクスはいったん立ち止まり、余らせた魔法紙で蝶を作る。



 新しい魔法蝶だが、既に探知してある気配は継続して追尾させることができる。リンクスは、魔法蝶に前回とは違った命令を与えた。加えて、航続距離が長くなるように自らの魔力も追加で魔法蝶に付与する。



 リンクスは記憶(メモリー)済みのトゥード(むすこ)の気配を魔法蝶に読み込み(ロード)、空に放つ。



 ――とにかく、カナーティまで頼んだぞ。

 ウードがカナーティで待っていると思っているリンクスは、ひらひらと舞い飛んでいく蝶にそんな祈りを込める。



 歩みを再開するリンクス。

 夜明けはまだずっと先だ。

 ――出来るだけカザイアから離れなくては。


 少しでも歩かなくては、と思うリンクスだが、長い牢屋暮らしからいきなりこの場に転移して、落ちている体力のままでは幾らも距離は稼げないだろう。



 もういちど転移魔法を使うためにはあと数時間の魔力の蓄積が必要だ。しかも、そこまでして転移したとしてもカザイアからどれだけ離れられるかは未知数。



 リンクスは様々な要素を加味した上で、少しずつでも徒歩で移動した方が良いと判断した。魔力は、歩きながら貯める。



 ――どうにかして最寄りの町に入り、紛れ込んでしまえば。

 勝算はあるはずだ。

 信じてリンクスは進む。

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