癒やす者――アミナ
光が去ると、四人は誰もいない広場に立ち尽くしていた。
ウードは辺りを見回し、この広場からあらゆる方向に、放射状に道が伸びているのを確認する。
それぞれの道沿いには民家や商店が建ち並んでおり、それは、どこにでもあるごく普通の街並みに思えた。
「ここが――ハイレンなの?」
構えていた黒刀を下ろすガウ。
現在時刻も不明だった。今が昼なのか夜なのか、外の明るさがはっきりとしない。
「見てみろよ少年」
サンタクララが指したのは背後――振り返ると、そこには薄い膜のようなものがかかっていて先が見通せなくなっていた。ということは、この空間はぐるっと外周がこの膜に取り囲まれている可能性がある。
「外界とは隔絶されている、ってことだな」
サンタクララはウードの見ている方向に目を遣ると、大して驚いてもいない表情。
「分かっていたんですか?」
「いや、そうだろうなと思っていただけさ」
広場に立ち尽くしたまま、サンタクララが呟く。
「思っていた?」
「精霊に選ばれる必要があるってことは、他の方法では行けないってことだろうからな」
だからこんなこともあるだろうな、と思っていたのさ。
辺りに目を配り、人の気配を感じようとしているサンタクララ。まだ街の住人に会えてはいないため、彼も警戒を解くわけにはいかないのだろう。
「誰も――いないね」
不安そうなレンカ。
「さっきの声、何て言ってたんだろ」
ガウの疑問には誰も答えない。
と、サンタクララが振り返ってウードを見る。いかにも何か言いたげなその顔にウードはたじろぐ。
「な、何ですか」
「いや――」
ウードの目から読み取れたことがあったらしく、サンタクララはそれ以上何も言わなかった。
「お。誰か来たな」
一本の道を歩いてくる人影があった。人影は、ウード達の正面の道を彼らに向かってゆっくりと歩いてくる。
身に纏っている白いローブがしずしずと揺れ、柔らかな物腰が印象的な――だが、ウードはこれまでに見たことのない種族だった。
白いローブの人物は一行の前で立ち止まり、軽く会釈した。
「精霊に導かれし者達、ようこそハイレンへ」
ゼルスタン共通語だ。
高くも低くもない、それでいて涼やかな声。ウードら四人を前に微笑む。
緩く尖った耳、黄色の瞳に長い金髪。
一番近い種族は、ウードの知る限りエルフだ。
だが、肌の色が――青みがかっていた。それ程きつい青というわけではない。むしろそれが肌の透明感を上げてさえいる。だが、それはエルフの特徴ではないし、見た目も性別の区別がつきづらい顔をしている。
発する声で女性だろうな――とは思うが、誰にも確証は持てないままだった。
「初めまして。私はハイレンの行政官、アミナと言います」
胸に手を当てて、依然にこやかなまま。
「失礼かもしれないですけど、エルフ――ですか?」
レンカがおずおずと訊いた。
アミナ、相好はそのままにレンカの目を見る。
「いいえ、私はエルフではありませんし、この街にエルフは一人もいません」
「では何だ? あまりに――エルフっぽいんだが」
「初めて私達を見た者はだいたいその反応ですね。私達には特に――あなた方を人間、ドワーフなどと呼ぶような――名前はありません。ですが……」
胸の前で両手を組み、祈りを捧げる仕草。アミナは何かを唱える。すると彼女の唱える言葉のような音が、細い光の筋となってウードの方に流れていく。
光の筋は彼の左半身、切り落とされた腕の辺りで滞留する。
「ウード!」
駆け寄るガウ。だが、光の流れが邪魔をしてウードに近付けない。
「心配要りませんよ」目を閉じたまま諭すように、アミナ。
――何だ、これ?
ウードは自分の左腕のあった辺りがうっすらと温かくなるのを感じた。同時に、常に疼いていた部分が少し楽になったような気がした。
アミナ、目を開け、崩さぬ笑みのまま。
「私達は自らをこう規定しているだけなのです」
ウードは殆ど疼かなくなった左半身を不思議そうに眺める。
「癒やす者、と」




