王の憂い、決意
各種族に派遣した隊長たちが順次王都に帰還し始めていた。
マルフォント王はその報告を聞きつつ、同時にカザイア遠征の準備も進めていた。
そして、大方の種族の、ゼルスタン王国への恭順の意思を確認できたところで王はようやく一息つくことができた。
未だに帰らないのはサティルナスヘ派遣したエフロン隊だけ。
「王よ、精霊都市へは隊を送らなかったのですか?」
執務室で、兵士長はマルフォントに問い掛ける。
マルフォント王は彼の質問に軽く首を振りながら答えた。
「あそこはいいのだ」
「そう――なのですか」
当然、兵士長にもハイレンの知識はあって、あそこが容易に行けるような場所でないのは知っている。
だが、ハイレンが王国に加盟している以上は何らかの確認が必要なのではないかとも考えている。
「と言うかな、誰にも行けはせぬのだ」
「行けない?」
マルフォントは執務室の椅子に深く座り、こめかみを軽く押さえる。まるでそうするとことで記憶を呼び覚まそうとするように。
「確か、記録によれば……」
王の話だと、ゼルスタン王国への加盟を取り付けて帰ってきたのが最後に公式にハイレンに行った人間だという。そして、それはマルフォント王の先祖だと言うことだった。
「それが、最後なのですか?」
加盟の確認に街に入ったのが最後ということは、それいらい街がどうなっているか、少なくとも王国は把握していないということになる。
「勿論、民間では色々と交流はあるじゃろうが、な」
王はふっと息を吐く。
「それよりも、何故エフロン隊は戻って来んのじゃ」
話題を逸らされて気分を害したのか、王はぎろりと兵士長を睨み、彼をすくみ上がらせた。
「は。誠に申し訳ございません」
「何故こんなに時間がかかる――よもや、何かあったのか」
マルフォントの表情が険しくなる。カザイアのようなことが起きたのではと危惧しているようだった。
「今しばらくお待ち頂きたいのです。サティルナスヘ別の隊を派遣しましたので」
「それはもう聞いたが……。まあ良い、分かったらすぐに報せよ」
恭しく頭を下げ、兵士長は執務室から出て行った。
マルフォントはそれを見送るとまた一つ息を吐いた。
畢生の剣士、ナヨリ・エフロンは確かに有能な兵士だろうが、今回のように相手の意図を確認する任務に向いていたのかどうか、王は今更だが分からなくなっている。あの時は、とにかく誰でも良いから急いで各種族に向かわせなくてはと――そう、急き立てられていた。
いずれにせよ、もうカザイア以外に王国から抜けられては困る。何としてもドワーフ達には残ってもらわねばならない。
だが嫌な予感は――消えない。何かあったのではないか、そんな予感が水面に落とした墨のようにどこまでも広がっていく。
――まずは、カザイアを取り戻さなくては。
席を立つマルフォント。
あと数日でカザイア遠征軍の編成を終える。
オーガの街カザイアで待ち構えているサルクを倒すこと――まずはそれがマルフォントにとっての最優先事項。
――奴とのケリ、着けねばならぬ。
無意識に両拳を握り、固めた。




