導かれる
その夜。
魔獣に備え交代で見張りに立つと決まり、今はウードの番だった。川岸から少し離れた所に並べられた三つのテントを背に、ウードはひとり焚火を見つめていた。
とても静かな夜だった。
唸り声や、遠吠えの類が一切聞こえず、獣達がまるで何かに怯えて、じっと息を潜めているようなひりひりとした静寂。
「どう? 何か変わったことは?」
声に振り返ると、ガウが近付いてくるところだった。
「いや、何というか――不気味だな、と」
「不気味?」
彼の隣の岩に腰掛けるガウ。
何だか、何かに怯えているようで――ウードがそう告げるとガウはちょっと待ってねと言って眼を閉じる。竜の超知覚で辺りを探っているようだ。
やがて目を開けて。
「うーん。危ない気配はないかなぁ」
「そう。ならいいんだよ」
焚火にウード、薪をくべる。ばきん、爆ぜる音。
「ウードはさ」
その音を切っ掛けにしたように、ガウ。
「この旅の目的、考えてる?」
このところ、ガウとの同調率が高い。少しくすりとするウード。
「僕はさっきガウが言った通りだよ。君と僕が落ち着ける場所を探してる」
「そうなのね」
「ガウは違うの? さっきは――」
「居場所のこと? あれは建前。本当はね」
ガウは唇をきゅっと引き結んで炎を見つめる。オレンジ色に反射したガウの顔、鮮やかに。
「私達に今のままじゃ居場所なんてないわ。だって、この世の全てがゼルスタンに支配されているんだもの。だから」
彼女の瞳が決然と前方を捉え、炎がたじろいだように揺らめいた。
「私はね、作ろうと思うんだ。居場所。単純でしょ? ないなら――作る」
そうして、ウードを見た。
「どう、やって?」
その問いかけに自信たっぷりに口を開くガウ。
「ええとね――」
だが、辺りが突然昼間のように明るくなり、会話はそこで途切れた。
「ど、どうしたっ」
サンタクララが素早くテントから出てくる。
レンカは眠りが深いのか、気づいていないのか。
「ウード、レンカをお願い。あと、私の刀も!」
危険のありそうな場面では、意識してかせずか、ウードをそこから遠ざけようとするガウ。
「分かった!」
依然、辺りは明るいままだ。よく見ると光は川面から発せられているようだった。
ウードはレンカを起こし、テントから一緒に出る。
「これ、一体どうなってるの」
驚くレンカを後目にウードはガウのもとに戻り黒刀を手渡す。
「ねえサンタクララ。これ私、見覚えがあるんだけど」
刀を受け取るガウだが、どうやら思い当たる節があるようだ。サンタクララも気付いたのか、慌ててテントを片づけ荷物をまとめていく。ウードとレンカも倣う。
「サンタクララさん。どうして荷物を?」
レンカが少し息を切らせて彼を見上げる。
「こいつは、ひょっとして――?」
光輝く川面に照らされる四人。
今や光は辺り一面に広がっており、全員がその中に沈むように。
「やっと俺の魅力に気付いたか精霊よ」
「何よそれ。絶対に違うと思うけど」
黒刀をがしゃんと鳴らし、ガウが悪態をつく。
そんな二人の横にウード、レンカも並ぶ。
「まさか?」
「そうだ。多分これが――」
サンタクララが言葉を継ごうとした時、リズミカルな音が聞こえてきた。
「何? 今の音?」
それは、ぱたぱたと雨が屋根に落ちる時のような、一定の律動を持った音――。
に聞こえた。
たった一人、ウードを除いては。
『――っしゃい。話者さん!』
緑に輝くウードの瞳。
それを見逃さないサンタクララ。
『竜のお嬢さんも! 竜なんて随分とご無沙汰だわ!』
「誰か、喋ってる?」
ガウ、耳をぴくぴくと震わせる。
「うん、聞こえるね」彼女に同意するレンカ。
『ええと……。あら? 娘さん、ドワーフね? これまた珍しい。それに、何て凄い潜在能力っ』
「ん? いま何か……、あたしの話だった?」
勘の鋭いレンカ。
『で、最後に……、イケメンのお兄さん……?』
謎の声の主が短く息を呑む気配。
『何とまあ。不思議な気配はてっきり話者さんのだと思ったけど。そうか、君は、アレを取りに来たんだね――時期は、良いとは言えないけれど』
「お、最後は俺のことか、精霊よ!」
サンタクララもレンカに負けじと勘が鋭い。
『まあとにかく皆、招待するね!』
その言葉にタイミングを合わせるようにウード達の周囲の光がひときわ大きく波打ち、そのまま跳ね上がって四人に覆い被さる。
「おわっ」
「な、なにっ?」
混乱する四人をよそに、声の主は元気一杯、子供のような弾ける声で明るく言い放つ。
『ようこそ、精霊都市へ!』




