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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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サンタクララ

 街道が途切れた後、何日か歩いて三人はようやく話に聞いた大河まで辿り着いた。


 流れは緩やか。昼下がりの暖かな日に川面がきらきらと輝いている。川幅は広く、向こう岸が(かす)んでよく見えない程だった。


 「これ、ちょっと……」

 ウード、あまりにも広い川幅に驚いていた。



 「まあ……、泳いでは行けないよね」

 顔を見合わせ戸惑う二人。



 レンカは頭を掻き、曖昧(あいまい)に笑いかける。

 「いや、あたしは泳げるかなー? なんて」



 「これは流石に無理じゃない?」

 とガウ。確かに流れは緩やかだが、向こう岸までどのくらいの距離があるのかここからは見通せないのが問題だ。

 下手をすれば途中で体力が尽きることも有り得る。



 「橋はなさそうだね」

 辺りを見回して、ウード。


 「となると、迂回だね」

 荷物を背負い直し、早くも川沿いに南下を始めるガウ。


 「あ、待ってガウ」

 二人もそれに続く。





 少し歩いて、ウードには何となく分かってきた。何故、街道があそこで終わっていたのか、何故、川に橋は掛かっていないのか。

 多分、渡れたとして何があるのか誰にも分かっていないのではないか。向こう岸が不明だから橋も架けられず、街道も伸ばされない。



 ――歩いて迂回、出来るのかな。

 と、いきなり先頭のガウがぴたりと歩みを止める。



 手に持っていた黒刀を腰溜めにして(つか)に手をかけ、半歩引いて前を向く――迎撃態勢だ。



 「何か、用?」




 三人の目の前に、男がいた。







 男は川岸に佇んでじっと川面(かわも)を見つめているが、ちょうど三人の進路を妨害する位置に立っている。明らかにウード達を意識した行動だった。



 まだ若い男。二十代前半だろうか。目元の涼やかな整った顔立ち。長い睫毛が悩ましげに(なび)いている。頭に巻いた布の帽子からのぞいている髪色は銀。ウードよりも背が高く、全身を黒ずくめの装備で固めている。



 「いや、こんな所で人に会ったものだから、つい、ね」

 男は水面から視線を切る。



 ガウに向き直り、まっすぐに彼女を見据えた。

 「あんたらも向こう岸に用があるのかい?」



 「ま、まあね」ガウに代わって答えるレンカ。

 すると男は笑って眼を伏せた――その仕草が何とも色っぽく、ウードはどきりとする。


 「何がおかしいの」ガウ、敵意を男にぶつけて。

 「いや済まない。俺もこの川の向こうに行きたいんだよ」

 「へえ。あなたもハイレンに用が?」

 男は顎を引いた。


 「俺の捜し物がね、この先にあるらしくて」

 向こう岸を遠い目で見つめる男。


 どうやら相手に敵意がない判断したらしく、ガウは構えを()いた。


 「私はガウ。で、こっちがレンカで、この人がウード」

 全員を指差しながら、ガウ。



 「おっと申し遅れた。俺はサンタクララ・エリア・レマイクと言う。宜しくな、お三方(さんかた)


 美形の男――サンタクララはそう言ってにこりと笑った。










 「レマイク、さん。何か当てはあるんですか?」

 四人、川岸に並んで立っている。



 取り敢えず一緒に行動することになったものの、ここを渡れなければ話は進まない。



 「サンタクララでいい。当ては……、まあないこともない」

 「へえ。そうなんだ」



 どことなく固い声のガウ。警戒は解いても、彼にまだ気を許したわけではないようだ。



 「ああ。知ってるだろうがハイレンは精霊都市だ。噂では精霊に選ばれた者だけが街に入れるらしい」



 「選ばれる? 精霊(あいつら)に?」

 ガウ、嫌そうに。



 「お、ガウちゃんその様子だと精霊に会ったことあるね?」

 と、サンタクララはどこか楽しげだ。



 「ガ、ガウちゃん?」

 目をぱちくりさせるガウとウード。レンカは少し笑っていた。



 「二度とそう呼ばないで。何だか腹が立つわ」

 「おお、悪い悪い。で、何だっけ?」



 「精霊に選ばれればいいって」

 「そうそう。要するに精霊に好かれたら行けるらしいんだ――」

 「方法、あるの?」

 首を振るサンタクララ。



 「それがさっぱり分からん」

 「わ、分かんない、って……、じゃあさっき言ってた当てがないこともないってのは?」



 するとサンタクララは得意そうににやり(・・・)とする。

 「だからさ、好かれればいいんだら? だったら、俺みたいなイイ男ならここでこうしてりゃそのうち、な?」



 ガウに片目をぱちん、と閉じてみせるサンタクララ。

 はあ、要するに分かんないのね――ガウがため息混じりに呟いた。

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