世界の端っこ
「本当にそんな都市があるの?」
街道を東に向かう三人。夕べは久し振りに宿に泊まり、全員元気一杯だ。もうすぐ街道が途切れるため、ハイレンに着くまでの実質最後の宿だ。
「どうだろう。王国には加盟しているって話だけど」
ガウの問いにウードが思案顔で答える。
「ふうん。だったらある、のかな?」
レンカ、無邪気に笑う。
「それにしても、精霊かぁ」とガウ。
「レンカは見たことあるの?」
「あたしはない。でも、父さんが言うには」
レンカによれば、精霊とは見る者によってその姿を変えるのだという。魔力が高濃度で存在する場所にしばしば現れ、人々に様々なものを見せる――精霊は『存在』というよりは『現象』――そんな捉え方なのだと。
「なるほど、そんな感じなんだ」
「らしいよ。まあ一度くらいなら会ってもいい、かな?」とレンカ。
「私は嫌かなぁ。精霊、けっこう厄介だから」
先頭を歩くガウが振り返らずにそう答えた。
どこか別の場所で彼女は精霊に会ったことがあるらしい。
ハイレンに向かうと決まった晩、ガウはそう話していた。
もう決めたことだから行くけど、とも。
今日も気温が高い。
宿を出て暫く歩いただけだが、ウードは少し額に汗を滲ませていた。
サティルナスを出てひたすら東に進路を定めてここまで歩いてきたが、果たして本当に精霊都市が存在するかも判然としない。
王国に所属している以上、ハイレンは存在する「はず」なのだが、色々と謎の多い街ではあった。
一体いつ王国に属するようになったのかも不明なら、実は街に住む種族も不明だ。
しかも、そんな謎だらけの街だが、何故か場所と名前は広く知られている。
――とにかく辿り着かないことには。
最後尾を歩くウード。
「あ、ここまでだね」
ガウが足元を見て呟いた。
吊られてウードも見る。
ここが、東の街道の終端。石畳が終わり、街道が――途切れる。
このことからもハイレンという都市が如何に異様な存在かがわかる。
王国に所属している街であるはずなのに、街道がそこまで整備されていない。まるでハイレンの街に向かう者などいないとでも言わんばかりだ。
「これ以上は誰も行かないの?」
不安そうなレンカ。道、と言う概念に完全には馴染んでいないようだった。
「そんなことはない。この先にも行く人はいる」
ただ数が少ないだけ、と言ってウード、石畳の途切れた先に足を出し、地面を踏みしめた。
足から伝わるじゃりっ、という今までとは違う感覚。石畳の時はまとめて踏みつけていた物質が分解され、沢山の粒を踏みしめているのだとウードは感じた。
赤茶けた砂や小石、細かく砕けた木の枝――それらが渾然となってウードに『世界』の広大さを伝える。
――ここからは未知の世界。
「ね、何だかわくわくしない?」
ガウが隣でにこりとする。
「あたしもあたしも。ここから本番っ! て感じで」
レンカも何故か微笑んでいる。そうして先頭に立って踏み出す。
「さあ、ウード」
つ、とガウが彼の背を押す。
どうやらここからはガウが殿を歩くつもりのようだった。
「ガウ?」
「ん? まあ一応ね」
ガウは黒刀を鞘のまま水平に構え、刀身を少し引き出してじっと見つめた後、音を立てて元通りにしまった。
「ここからは何があってもおかしくないんだからね」
ぴりり、とガウを取り巻く空気がいちだん引き締まる。
「分かった」
レンカが先頭に立ち、ウードは真ん中。
隊列は決まった。
「じゃあ、行こう」
三人で街道の途切れた――その先へ。




