捜索隊――カザイアまだ遠く
カナーティを出て丸十日。
リンクス捜索隊は南下を続けていた。
とは言え、街道に沿っていくため安全だが進みは遅く、オーガの街、カザイアはまだまだ遠い彼方だった。
今日も次の宿場までの安全な街道を一行は南へ向かっている。資金力に乏しいため、今の所は徒歩が中心だ。
カザイアに近づけば物価がオーガ寄りになり、馬も借りられるようになる――それが、ティアナの父、マルドゥムの見解だ。
捜索隊のメンバーはティアナ、マルドゥムの他に、
「もうちょっとペース上げませんか、マルドゥムさん」
リンクスの元部下で回復魔法使いの女性ケア・バナデサス。
「急ぎませんと、リンクス殿が心配です」
退役軍人の斧使い、クラスト・テトルアン。
「ぼ、僕はみなさんに従いますのでっ」
少し気の弱そうなリンクスの弟子、ユーザーン・アーダーン。
男三人、女二人のバーティだ。
「リンクスさん、どうぞご無事で……」
ケアは長めの金髪に神経質そうに触れる。
灰色のローブにマントを羽織り、背中にはリュックを背負っている。見た目は二十代後半辺りか。
斧を背中に背負ったクラストは元軍人らしく如才のない眼で周辺に気を配りながら歩いている。地毛なのか、赤茶けた短髪が印象的だ。鎧は着けず、動き易さ重視と言った服装。肌の張りからいって、まだ四十代ではないだろう。
ユーザーンは気の弱い印象だ。睫毛の長い目を伏せ、きょろきょろと周囲を見回している。クラストの弟子であるからにはある程度の魔法が使えるのだろう。緑色の魔法衣を身に纏い、腰には短い杖を差していた。おそらく、この中ではティアナに次いで若い。
五人は今、マルドゥム、ティアナを先頭にして、春の柔らかい空気の中、一様に――苛ついている。
無理もない。この進み具合ではリンクスを救出するという目的を果たすのがまだまだ先のことに思えたからだ。ティアナに至っては目的はリンクスではなくウードだから、その達成は更に遠くに感じられた。
「お父さん、リーダーやってくれるのはありがたいけど、この遅さ、何とかならないの?」
歩きながら、後ろのメンバーにぎりぎり聞こえない声で話しかけるティアナ。
するとマルドゥムは小さく咳払いをして、ティアナの方を見ずに囁くような声でこう言った。
「お前が心配なんだよ」
だから安全な道を確実に、と続けるマルドゥムの顔を見て、ティアナは思わず目を剥いた。
「いやいやお父さん、馬鹿なこと言わないで。これは、リンクスさんを助けに行く旅なのよ? 何であたしのことが――」
押し黙るマルドゥム。
――呆れた。
要するに娘を心配する余り、こんなにのんびりとした行軍になっているのか。
――冗談じゃないわよ。
こんなんじゃウードに行き当たるどころか、リンクスさんにだって。
ティアナ、荷物を背負い直し、意を決して街道から外れる。
「皆さん! 少しペースを上げましょう!」
この辺りは街道を道なりに進むと曲がりくねった道沿いを行くことになり、かなりのタイムロスになる。が、街道を外れまっすぐに南下すると、曲がりくねった街道を突っ切れてショートカット出来るはず――ティアナは事前に予習してきているのだ。
「お、おい!」
背後から聞こえる慌てた声。
――いいから行くよ、お父さん。
振り返りもせず、口にも出さず。
ティアナは足早に突き進む。
それは、街道を外れて暫く進んだ時だった。
ようやく残りの四人がティアナに追いつこうかとしていた所で、一行はうら寂しい道に差し掛かっていた。気付けば人気はすっかり無くなっており、どことなく暗い雰囲気が漂う。
――これは……。
全く歩調を落とさずに道を歩きつつもティアナは少し動揺していた。
――こんなに誰もいなくなる、ものなの?
誰も、文字通り誰も人間がいなくなった。街道にはあれほどいたのに、今は人っ子一人見当たらない。
――そうか、だから誰も街道を逸れないのか。
理解し、足を止めるティアナ。
街道の安全はゼルスタン王国が保障している。
定期的に警備の兵士が巡回を行い、万が一事件が起きても彼らが適切に対処する。そう、街道を行く限り旅の安全は王国によって保たれるのだ。
街道を行く、限りは。
「ねぇ、やっぱり戻りましょ――」
だが、ひとたび街道を逸れれば。
「きゃっ」
「な、何ですかあなた方は!」
低い唸り声。
全身を覆う長い体毛、突き出た鼻、そこから洩れる鋭い牙。そして、尖った耳。
人語など通じるはずもない。
見るからに獣。
それでいて、どう見ても人だった。
様々な種族の獣人が徒党を組んで数十人。
たった五人のティアナ達をぐるりと取り囲んでいた。




