三人旅
レンカに血清の投与をした日。
「ウード、ありがとう。本当に」
セラーは医療院の待合いでウードに頭を下げた。
「全く、言葉の力とは凄いものだな」
「え?」
「だってそうだろう? 君は、我々ドワーフ族を再びまとめ上げたのだ。『万能の話者』の力で」
「その力だけじゃ――出来なかったと思います」
診察室から出てくるレンカ、にこやかに。
付き添いで一緒に入っていたガウも笑顔だ。
「お帰り。二人とも」
ウードは笑いかける。
「言葉の力なんて、所詮」セラーに向き直って。
――人の思いに、心に、勝てる言葉などない。
レンカを思う気持ち、レナディナ達のスールカナムを思う、気持ち。
――それがなければ、僕の力なんて。
【ところで、レンカを連れて行ってくれないか。君たちの旅に】
【セ、セラーさん?】
ドワーフ語でなく、神代語だ。
【君は、ガウさん――最後の竜と旅を続けるのだろう?】
それを聞いたレンカが驚いたようにガウを見た。
ガウはそのやり取りが分からず、戸惑った笑み。
セラーはガウに気を遣ったのかもしれない。竜だということ、ガウが隠したがっていると。
【ええまあ。多分もう人間の街に戻ることはないでしょう。ただどこか、落ち着ける場所へ】
当てのない旅ですよ? とウード。ガウはどうか知らないが、少なくとも彼はそう考えている。
【だからこそ、娘を頼みたいんだ。娘に、今の世界を見せてやってくれ】
【いいんですか? 危険ですよ?】
【あたし、行くわ】とレンカ。
セラーは、そんなレンカを頼もしそうに眺める。
「ねえ、私を仲間外れにして、何の話なのかしら?」
「あ、いや、ガウ……」
ほんのり怒気をはらんだガウに、レンカのことを伝えるウード。
「分かったわ。じゃあ私が守ればいいよね?」
事も無げなガウ。レンカに任せといて、と微笑みかける。
ウードは自信たっぷりなガウの顔を見ると、それ以上何も言えなくなった。
ウード、ガウ、レンカの三人は長い階段を上っている。
「で? ガウ、次はどこへ行くの?」
階段の回廊、静寂の中ウードの声が響いた。
一番後ろを歩くウード。
彼は自分の装備を見直し、出来るだけ荷物が持てて、動き易い服装にしていた。
灰色のフード、同系色のズボン、黒のブーツ。
上から黒いマントを羽織り、身軽さ重視だ。
「うーん。どこが良いかなぁ」
思案顔のガウ。少し短くした緑の髪が緩やかに揺れる。手にはあの黒刀を携え、ドワーフに誂えてもらった銀の部分鎧を上半身に。紺のズボンを穿き、足元はお洒落なのか薄赤いブーツ。そして、彼女もその上からマント――色は白っぽいが――を羽織っている。
「あ、あたし、行ってみたいとこがあるの。もちろん二人が良ければ、だけど」
先頭で風を切っていたレンカがきゅっと声を上げた。
回復魔法を独学で修得したというレンカ。黒髪をアップに括り、黒目がちの瞳を優しげにたわませている。手には短い杖、上下ともに緑色の法服の様な物を纏い、青いブーツ。法服の意匠は抑え目で、所々に神代の文字が刻まれていた。
「どこ?」
ガウ、手に持った黒刀ががしゃんと鳴る。
「えーと、あたしもお父さんから聞いただけなんだけどね」
「そうだレンカ、お父さんの名前は? セラーさん結局教えてくれなかった」
「あははは。ウード、それは内緒。お父さんにきいて、ね? あ、でも、ウードに絵のお礼を言っといてくれって」
「ああ、気に入ってくれたんだね」
セラー、トールとの別れ際に渡した三人を描いた絵。
レンカが居なくても、寂しくないな――セラーは、トールと顔を見合わせて笑い合う。その笑顔に癒されたウードとガウ。
「ふふ――で、どこに行きたいの? レンカ」とガウ。
ええと、とレンカは少し考えた後、やがて思い出したのか嬉しそうに口を開く。
ウードは、そんなガウの背中を見つめていた。
彼の視線に気づいたガウが、振り返って怪訝そうな顔を彼に向ける。
「ん、なあに?」
「何でもないよ」
「なにそれ。変なウード」
「どこに行くか決まった?」
「あ、そうそう。ねぇ聞いて、ウード。レンカったら――」
レンカの行きたい場所を聞いて、少し驚くウード。
と、階段がもうすぐ終わるようで地上への開口部が見えてきた。程よく温められた春の空気が三人を取り巻いていく。
「いいね、じゃあそこにしようよ、ガウ」
「やった」とレンカ。
「いいの? あいつら、結構――なんて言うか、厄介よ?」
「うん。楽しみだね」
ウード、ガウに涼やかな笑顔を向けて。
――いよいよだ。
さあ、新しい旅を始めよう。
ウードはリュックを背負い直した。
予定よりだいぶ長くなりましたがこれにて第二部終了です。
次回は書き終わったら、と言うことで未定です。
再開されましたらまた宜しくお願い致します。
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