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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
69/250

同胞

 「話してみますか? レナディナさん達と」

 例の空間でセラーと話すウード。



 どこからか出されたテーブルにセラー、トール、レンカ、そしてウードとガウが座る。



 ええ、やっと決心が付きました、とセラー。

 「考えてみればスールカナムは、レンカの故郷ですから」



 セラーの顔を見て、ウードは考える。

 ――乗り越えて……、は、いないよね。



 だが、セラー達は前に進むことにしたのだ。

 色んなわだかまりや消化できないことがあっても、娘の為に。



 ――強いなぁ。

 「分かりました。では向こうに伝えます」



 席を立つウード、ガウ。

 どうか、この話し合いがうまく行きますように、レンカの顔を見ながら、ウードは祈る。






 それから、更に時間が経ち。



 博物区、大図書館の地下。

 普段は滅多に使われない会議室で、レナディナ達とセラー、トールの会合が開かれた。

 ウードはテーブルの真ん中に座って通訳を務める。

 因みに、ガウは堅苦しいのは嫌だと言って、別室でレンカと遊んでいる。



 「――何とお呼びすれば宜しいか」

 挨拶もそこそこに、レナディナは話し始める。


 「では、セラーと」

 「了解した。セラー殿」

 「それで、私にお話、と言うのは」



 セラーは、どうやら自分達(ユーラケサーク)の要望の前に、相手(スールカナム)の話を聞くことにしたらしい。



 レナディナは眼を閉じ、テーブルの上に出した手を組み、(せわ)しなく指を動かす。



 やがて。



 「当時、儂はまだほんの子供でした。ただ何となく、ユーラケサーク(あなたたち)を見ていた。あなた方がどんなことをさせられているのか、考えもせずに」



 【それで? 子供だったのだから、あなたに罪はない――そう言いたいのでしょうか】

 その言葉に(とげ)を感じてウードは訳出(やくしゅつ)をためらう。


 【セラーさん、今の、訳していいですか?】

 ウードがセラーと同じ言葉を操るのを見て、息を呑むトマリ。これが万能の話者の力なのかと、認識を新たにしたようだった。


 【いや、待って、訳さないで下さい】

 ウードは頷き、向き直ってレナディナに先を促した。


 「――儂らは、ただ目先の利益を追い求め、その結果何が起きるか、考えもしていなかった。

 そうこうしているうちに一人、また一人とユーラケサークは……」



 声が()れ、俯くレナディナ。

 セラーは、トールはただ、何も言わずに族長の慨嘆(がいたん)を聞いている。

 

 「セラーさん、トールさん、我々は過ちを犯しました。本来なら手を取り、助け合うべき(・・・・・・)同胞(はらから)に、あんな、ひどいことを」


 見ると、トマリ、ラベントの二人は目を見開いている。

 どうやら彼らには、自分達がユーラケサークと同族であることは知らされていなかったようだ。


 「我らの神は慈悲深くあれと教えて下さっていたのに、

 そ、それを破ったばかりか、よりにもよって、あ、同胞(あなたたち)をっ……」



 「私の両親も、トール(つま)の両親も、過労で死にました」

 ぽつ、とセラー、話し始めて。



 「あなたは自分はまだ子供だった、と言いましたね?

それを言うなら、私達だってまだ子供だったのです! およそあなたの幼年期とはかけ離れたものだったでしょうが」


 そこで言葉を切り、レナディナを睨みつけた。

 「あなたがたは! どうして? なぜ? 私達があなたの同胞(なかま)だと知っていたのなら、尚更に!」



 テーブルに拳を叩きつけるセラー。

 多分、ここへ来るまで、(セラー)は冷静に、事務的にこちらの要望を伝えるつもりだったはずだ。ウードは天井を仰ぎ、何かに耐えるセラーを見てそう思う。

 だが、子供だったとは言え、まさに奴隷時代の生存者であるレナディナを見て、抑え切れぬ激情が突き上げたに違いなかった。

 【今更、何なのだ……、もう誰も、戻らないんだぞ……】

 ウード、訳さずに。

 「セラーさん。私達の歴史は、もうずっと止まったままなのです」

 「それで? 私達に、どうしろと……?」

 「いえ、ただ、滅びゆく(・・・・)スールカナム(われわれ)の歴史の最期を、あなた方に看取(みと)って欲しい、と」

 ――何だって?

 ウードの口が止まった。

 レナディナ、微笑みは(はかな)げだった。


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