同胞
「話してみますか? レナディナさん達と」
例の空間でセラーと話すウード。
どこからか出されたテーブルにセラー、トール、レンカ、そしてウードとガウが座る。
ええ、やっと決心が付きました、とセラー。
「考えてみればスールカナムは、レンカの故郷ですから」
セラーの顔を見て、ウードは考える。
――乗り越えて……、は、いないよね。
だが、セラー達は前に進むことにしたのだ。
色んなわだかまりや消化できないことがあっても、娘の為に。
――強いなぁ。
「分かりました。では向こうに伝えます」
席を立つウード、ガウ。
どうか、この話し合いがうまく行きますように、レンカの顔を見ながら、ウードは祈る。
それから、更に時間が経ち。
博物区、大図書館の地下。
普段は滅多に使われない会議室で、レナディナ達とセラー、トールの会合が開かれた。
ウードはテーブルの真ん中に座って通訳を務める。
因みに、ガウは堅苦しいのは嫌だと言って、別室でレンカと遊んでいる。
「――何とお呼びすれば宜しいか」
挨拶もそこそこに、レナディナは話し始める。
「では、セラーと」
「了解した。セラー殿」
「それで、私にお話、と言うのは」
セラーは、どうやら自分達の要望の前に、相手の話を聞くことにしたらしい。
レナディナは眼を閉じ、テーブルの上に出した手を組み、忙しなく指を動かす。
やがて。
「当時、儂はまだほんの子供でした。ただ何となく、ユーラケサークを見ていた。あなた方がどんなことをさせられているのか、考えもせずに」
【それで? 子供だったのだから、あなたに罪はない――そう言いたいのでしょうか】
その言葉に棘を感じてウードは訳出をためらう。
【セラーさん、今の、訳していいですか?】
ウードがセラーと同じ言葉を操るのを見て、息を呑むトマリ。これが万能の話者の力なのかと、認識を新たにしたようだった。
【いや、待って、訳さないで下さい】
ウードは頷き、向き直ってレナディナに先を促した。
「――儂らは、ただ目先の利益を追い求め、その結果何が起きるか、考えもしていなかった。
そうこうしているうちに一人、また一人とユーラケサークは……」
声が嗄れ、俯くレナディナ。
セラーは、トールはただ、何も言わずに族長の慨嘆を聞いている。
「セラーさん、トールさん、我々は過ちを犯しました。本来なら手を取り、助け合うべき同胞に、あんな、ひどいことを」
見ると、トマリ、ラベントの二人は目を見開いている。
どうやら彼らには、自分達がユーラケサークと同族であることは知らされていなかったようだ。
「我らの神は慈悲深くあれと教えて下さっていたのに、
そ、それを破ったばかりか、よりにもよって、あ、同胞をっ……」
「私の両親も、トールの両親も、過労で死にました」
ぽつ、とセラー、話し始めて。
「あなたは自分はまだ子供だった、と言いましたね?
それを言うなら、私達だってまだ子供だったのです! およそあなたの幼年期とはかけ離れたものだったでしょうが」
そこで言葉を切り、レナディナを睨みつけた。
「あなたがたは! どうして? なぜ? 私達があなたの同胞だと知っていたのなら、尚更に!」
テーブルに拳を叩きつけるセラー。
多分、ここへ来るまで、彼は冷静に、事務的にこちらの要望を伝えるつもりだったはずだ。ウードは天井を仰ぎ、何かに耐えるセラーを見てそう思う。
だが、子供だったとは言え、まさに奴隷時代の生存者であるレナディナを見て、抑え切れぬ激情が突き上げたに違いなかった。
【今更、何なのだ……、もう誰も、戻らないんだぞ……】
ウード、訳さずに。
「セラーさん。私達の歴史は、もうずっと止まったままなのです」
「それで? 私達に、どうしろと……?」
「いえ、ただ、滅びゆくスールカナムの歴史の最期を、あなた方に看取って欲しい、と」
――何だって?
ウードの口が止まった。
レナディナ、微笑みは儚げだった。




