愛する者のためには
ゼルスタン兵は虫の息のナヨリを連れ、ラベントに導かれ地上へと帰って行った。
『さて』
ぱちん、と黒刀を鞘にしまうガウ。
彼女はウードに刀を預ける。
さぞ重いのだろうと身構えたが、恐ろしいまでの軽さだ。
これは超軽量で高い剛性を有する刀なのか、とウードはミキシラの技術力に舌を巻いた。
『玉鋼の配合比に苦労しました』――いつの間にか隣に来て、満足そうにミキシラが呟いた。
タマハガネ? ウードは聞きたい衝動を抑える。
今はそんなことよりもガウの無事の方がウードの心の大半を占めていた。
「背中、大丈夫?」
うっすらと滲んでいるガウの血。
こんな時、回復魔法が使えたら。
ウードは父親に魔法をもっと教えて貰わなかったことを初めて後悔した。
『診せて!』
野次馬の怒号のような歓声の中から現れた小さな手が、ガウの背中に置かれる。瞬時に柔らかな光が灯り、傷があっという間に塞がれた。
『これで、よしっ』
レンカが満面の笑みで二人を見上げていた。
そこから、広場で酒盛りが始まった。
中心にガウとウードを据え、二人を肴にドワーフ達が飲めや歌えの大騒ぎ。
ウードもガウも酒は飲めないので初めは固辞していたが、押しに負け、一口だけならとガウが飲んでしまう。
二時間後。
すっかり酔いの回ったガウがドワーフ達と大声で笑い、酒宴を盛り上げていた。
「兄ちゃん、あんたも凄かったぜ」
がば、と背後からドワーフが多い被さって来た。
「あの憎たらしい兵隊に啖呵切ったろ、俺は痺れたね」
「いや、あんなの大したことじゃ」
「それ、私も、聞いてた!」
たどたどしいドワーフ語でガウが叫ぶ。
「ウード、怒る、珍しい!」
「そうかそうか、やっぱ、愛する者のためには誰でも必死ってことだな!」
「そう! ウード、必死!」
持っていた杯を高々と上げ、ガウが同調する。
――あ、愛する者って……。
多分、ガウには細かいところまでは聞き取れなくて、『必死』と言う単語だけ拾ったのだろう、とはウードにも分かる。
それでもウードは赤面して俯いた。
心の奥がふわりと柔らかくなる。
酒宴はまだまだ続きそうだった。




