決着
そこから、どのくらいの長さだったのだろう。
一瞬か、数秒か。
群衆も、兵士達も、息をするのも忘れてその『瞬間』を待った。
そうして、出し抜けにそれは始まった。
いきなり何かが爆発したような重低音。
前触れなく人々の眼前に舞い上がる土煙。
あちこちで悲鳴が上がり、皆手をかざして砂塵を避ける。
『な、どうなったんだ!』
「おい、エフロン様は?」
「分かりません! 見えません!」
『畜生! お嬢ちゃん、負けんじゃねぇぞ!』
『ああ神様、どうかあの娘を……』
ドワーフ語と人語が入り乱れる。
やっと視界が晴れた時。
立っていたのは――ナヨリだった。
『そんな!』
誰かが悲痛に叫んだ。
ナヨリは倒れ込んだガウの顎に切っ先を突きつけている。
「小娘、これで終わりだ」
ガウは焦るでもなく、どこか他人事のよう。
「ガウ!」
駆け出すウード。剣を振り上げるナヨリ。
――ああ、間に、合わないっ!
ウード、つんのめって転ぶ。
『ガウ、逃げて!』
群衆達が呆然とそれを見送る。
ガウは叫ぶウードに笑いかけた。
『ガウーーーーッ!』
ぱきんっ。
ナヨリの剣が真ん中から折れ、間髪入れず粉々に砕け散った。
「そ、そんなっ」
ガウ、埃を蹴って立ち上がる。
側に転がっていた黒刀を拾う。
すっかり戦意を喪失したナヨリは膝からその場に崩れ落ちた。
ガウは片手で黒刀をナヨリの眉間に突き付けた。
「さあ、謝れ」
見上げるナヨリ。彼の顔に、黒刀の細く長い影が落ちる。
「な、何を謝れと……?」
男は戸惑う。
無理はない。だが、ゼルスタンの連中はウードにひとり残らず謝罪する義務がある――ガウはそう思っている。
「いいから謝れ」ガウの声、低く。
「ひ、ひぃ……」
自信を打ち砕かれ、謝罪を強要され、ナヨリは混乱状態だ。
『ガウ、もう終わりにしよ?』
やっとガウの側まで辿り着いたウードが、彼女の腕を取る。
『で、でもっ』涙を流すガウ。
黒刀を下ろし、ウードの眼を見た。
『いいんだ。ありがとね、ガウ』
『でも、こいつらに! 君の! 左腕のっ』
そのまま言葉にならずガウの頬に涙、伝って。
『君をそんな風にした、こいつらを……』
ウードの胸に顔を埋め嗚咽を漏らす。
そんなガウの頭を撫で、呆然と座り込むナヨリをフード越しに睨むウード。
「もういいでしょ、帰ってよ――二度と、ここへは来ないで」
ナヨリを見下ろし、突き放すように言った。
そうして二人でナヨリに背を向け、群衆の方へ歩いて行く。
一際大きな歓声が上がった。
『ざまあみろだ! 王国の奴ら、調子に乗りやがって!』
『嬢ちゃん、すげえな! 身の丈程もある剣をあんなに軽々と!』
『祝杯だ! 誰か、酒持って来い!』
興奮気味のドワーフ達。
その背後。
――負けた? この俺が?
ふらふらと立ち上がるナヨリ。
振り返ると、兵士達が彼を見ていた。
――やめろ。
その眼が自分を蔑んでいる――ナヨリにはそう思えた。
「見るな!」
ナヨリは石畳に突き刺さっていたハリヤの剣を引き抜く。
「まだ、終わってない!」
緑色に閃くナヨリの瞳。
そして、消える。
『きゃぁっ!』
『嬢ちゃん! あぶねぇ!』
突然、ガウの真横に現れたかと思うと剣を振り下ろすナヨリ。
ガウはウードを自分の背中に隠し、黒刀を振り上げナヨリの剣を受け止めた。
「こ、このっ」
プライドを守るためにナヨリは必死だ。
だが、そんなプライドごとガウは弾き返す。
「ぐわぁっ!」
ガウは刀を中段に構える。
「あんたはもう、謝っても」
両手で持った剣を跳ね上げられ、がら空きになったナヨリの胴。
「許さない!」
一閃。
ナヨリの身体を、ガウは刀で横薙ぎにした。
鈍い炸裂音。鎧が粉々に砕け、ナヨリは真後ろに吹き飛ぶ。
轟音。振動。激突した石畳から土煙。
「エ、エフロン様っ」
兵士達が駆け寄る。
彼を抱き起こした兵士達が言葉を失った。
ガウの刀の通った跡なのか、エフロンの胸は真横にくっきりと陥没していた。
――ガウ、殺して、しまったの?
呆然とするウード。
「うぅっ……」
だが、ナヨリは生きていた。
恐らく再起不能だろうが、辛うじて一命は取り留めているようだった。
『ね? 大丈夫、って言ったでしょ』
それでも不安そうなウードに気づいたのか、ガウは刀身を彼にかざした。
――あ……。
目をみはるウード。
――この刀には。
『刃がついて、いない?』
『そう。ミキシラさんにね、お願いしたの』
軽くて、絶対に折れなくて、刃がついてなくて、とにかく長い刀を作って下さいってね――そう言って、ガウは小さく微笑んだ。




