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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
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加護 対 超知覚

 一瞬だった。

 目の前からナヨリの姿が消えた。


 多分、(まばた)きしていては間に合わなかっただろう。


 消えたナヨリはガウの真横に現れたかと思うと、鋭い突きを繰り出した。頬を斬られながら、辛うじて刀でそれを撃ち落とすガウ。



 「くっ!」ガウは体勢を立て直そうとナヨリから離れる。



 また消えるナヨリ。

 すぐさま背後に現れて、今度は真っ直ぐ剣を振り下ろす。



 ガウは斬撃(それ)をかわすため前に倒れ込む。だが、背中を薄く斬られた。



 立ち上がってガウ、すぐさまナヨリと正対する。

 「ほう。今のを()けるかよ」





 立場、逆転。




 今やナヨリが余裕の笑みを浮かべ、ガウを前にゆったりと佇んでいる。



 ――今のは……何?

 とてつもない早さだった。



 ――あたしが目で追えないなんて。

 じりっ、と間合いが詰まってくる。ガウ、後退。




 ――どうしよう……、見えないものをどうやって。

 刀が急に重く感じられる。




 ――落ち着け。

 ガウは自分の意識の中に、より深い集中力がないかを探す。ナヨリから目を逸らさず、細く長く息を吐く。



 だがいま意識は散漫で、集中を続けること自体が難しかった。

 ――落ち着いて、私!

 足元から(ほころ)びていくような、壊れていくような感覚が襲う。


 もう崩れ落ちそう――その時。

 『ガウ!』



 声に反応してそこを見ると、群衆の中にウードの姿。

 ――ああ、ウード……。



 彼の身体の周りだけ、じんわりと輝いているようにガウには見えた。まるで、暗闇に沈んでいく彼女を照らす、灯火(ともしび)のように。



 ――見てて、私、負けないから。

 そう思った瞬間、他のことはガウの後方に飛び去り、そればかりかナヨリ(てき)のことさえ意識から遠ざかった。




 気づけばあっという間に何もかも意識から()ぎ落ち、後には小さなちいさな、それでいて凄まじい力に満ちた『光』だけがガウの意識に残った。


 それは、ガウの中に眠る(ほんとう)の力。



 ――さあ、行くわよ。

 ガウ、その光に意識を沈める。瞬時に研ぎ澄まされる五感――彼女の瞳に金色(こんじき)の火花が散る。



 「何をぼんやりしているか!」

 ナヨリの姿がまた掻き消える。



 ガウ、細く長く鋭く息を吐く。超知覚、全開。



 ――左!

 身体の左側に刃を立てる。即座にガウの身体を強烈な衝撃が揺らす。


 ――何て、重い……!


 二連撃だった。重い金属音と共にナヨリの二本の剣がほぼ同時に黒刀(こくとう)に叩き込まれていた。

 確かに重い攻撃だ。


 だが。


 ――見える!



 「まだだっ」ナヨリ、ガウの視界から霧散。



 ――今度は、上っ!

 刀身、頭上で水平に。



 ぎぃぃぃん。




 ガウに高い金属音が降り注ぐ。だが、さっきとは様子が違った。



 ――あれ? 音、軽いっ!

 振り上げた刀を咄嗟に引きつけ顔面を守るように構え直すと、まさにそこに二撃目が飛んで来た。



 刀身同士が激突。巻き上がる砂塵(さじん)


 ナヨリとの鍔迫(つばぜ)り合い。


 ガウの刀、ナヨリの剣、それぞれが(きし)む。


 ナヨリ、ガウ、至近距離で睨み合って。

 ふ、ガウが――にやりと口元を上げた。



 ――あんたの剣はこんなこと、出来ないだろ!

 不意にガウが己の全体重を黒刀に乗せた。すると呆気なくナヨリの剣が折れる。



 黒刀も激しくたわんだが、折れる気配、なし。



 「こ、こんなっ」

 ナヨリ、後方に飛んで間合いを仕切り直す。



 (つか)だけ残った剣を悔しそうに石畳に叩きつけた。



 「あり得んっ、この俺の剣技が(しの)がれるなど!」


 ガウは黒刀を一振り、肩に担ぐ。

 「何それ。あんたの事情なんか、知らないわ」



 黒刀、ガウの両手に握り直され、周囲を圧する闘気を放つ。

 彼女の瞳に、金色(こんじき)の光が揺らめいた。


 「もう終わりにするね」



 逆巻く気流の中、事務的な連絡のようにナヨリに告げた。



 ゆっくりとガウの力が(みなぎ)っていく――それがウードにも分かった。



 「む、娘っ! 何故だ、何故ドワーフに(くみ)する! 知らないのなら教えてやる。いいか? 王国への反逆は――」



 「だから、関係ないってそんなこと――私は、ただ」

 その声、只管(ひたすら)に冷静。ナヨリ、たじろぎ。



 「ただ、あんたに謝らせたいだけ」




 今度はガウが――消える。



 「おのれっ」

 残った剣を握りしめ、緑に輝くナヨリの眼。



 彼も、消える。

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