加護 対 超知覚
一瞬だった。
目の前からナヨリの姿が消えた。
多分、瞬きしていては間に合わなかっただろう。
消えたナヨリはガウの真横に現れたかと思うと、鋭い突きを繰り出した。頬を斬られながら、辛うじて刀でそれを撃ち落とすガウ。
「くっ!」ガウは体勢を立て直そうとナヨリから離れる。
また消えるナヨリ。
すぐさま背後に現れて、今度は真っ直ぐ剣を振り下ろす。
ガウは斬撃をかわすため前に倒れ込む。だが、背中を薄く斬られた。
立ち上がってガウ、すぐさまナヨリと正対する。
「ほう。今のを避けるかよ」
立場、逆転。
今やナヨリが余裕の笑みを浮かべ、ガウを前にゆったりと佇んでいる。
――今のは……何?
とてつもない早さだった。
――あたしが目で追えないなんて。
じりっ、と間合いが詰まってくる。ガウ、後退。
――どうしよう……、見えないものをどうやって。
刀が急に重く感じられる。
――落ち着け。
ガウは自分の意識の中に、より深い集中力がないかを探す。ナヨリから目を逸らさず、細く長く息を吐く。
だがいま意識は散漫で、集中を続けること自体が難しかった。
――落ち着いて、私!
足元から綻びていくような、壊れていくような感覚が襲う。
もう崩れ落ちそう――その時。
『ガウ!』
声に反応してそこを見ると、群衆の中にウードの姿。
――ああ、ウード……。
彼の身体の周りだけ、じんわりと輝いているようにガウには見えた。まるで、暗闇に沈んでいく彼女を照らす、灯火のように。
――見てて、私、負けないから。
そう思った瞬間、他のことはガウの後方に飛び去り、そればかりかナヨリのことさえ意識から遠ざかった。
気づけばあっという間に何もかも意識から削ぎ落ち、後には小さなちいさな、それでいて凄まじい力に満ちた『光』だけがガウの意識に残った。
それは、ガウの中に眠る竜の力。
――さあ、行くわよ。
ガウ、その光に意識を沈める。瞬時に研ぎ澄まされる五感――彼女の瞳に金色の火花が散る。
「何をぼんやりしているか!」
ナヨリの姿がまた掻き消える。
ガウ、細く長く鋭く息を吐く。超知覚、全開。
――左!
身体の左側に刃を立てる。即座にガウの身体を強烈な衝撃が揺らす。
――何て、重い……!
二連撃だった。重い金属音と共にナヨリの二本の剣がほぼ同時に黒刀に叩き込まれていた。
確かに重い攻撃だ。
だが。
――見える!
「まだだっ」ナヨリ、ガウの視界から霧散。
――今度は、上っ!
刀身、頭上で水平に。
ぎぃぃぃん。
ガウに高い金属音が降り注ぐ。だが、さっきとは様子が違った。
――あれ? 音、軽いっ!
振り上げた刀を咄嗟に引きつけ顔面を守るように構え直すと、まさにそこに二撃目が飛んで来た。
刀身同士が激突。巻き上がる砂塵。
ナヨリとの鍔迫り合い。
ガウの刀、ナヨリの剣、それぞれが軋む。
ナヨリ、ガウ、至近距離で睨み合って。
ふ、ガウが――にやりと口元を上げた。
――あんたの剣はこんなこと、出来ないだろ!
不意にガウが己の全体重を黒刀に乗せた。すると呆気なくナヨリの剣が折れる。
黒刀も激しくたわんだが、折れる気配、なし。
「こ、こんなっ」
ナヨリ、後方に飛んで間合いを仕切り直す。
柄だけ残った剣を悔しそうに石畳に叩きつけた。
「あり得んっ、この俺の剣技が凌がれるなど!」
ガウは黒刀を一振り、肩に担ぐ。
「何それ。あんたの事情なんか、知らないわ」
黒刀、ガウの両手に握り直され、周囲を圧する闘気を放つ。
彼女の瞳に、金色の光が揺らめいた。
「もう終わりにするね」
逆巻く気流の中、事務的な連絡のようにナヨリに告げた。
ゆっくりとガウの力が漲っていく――それがウードにも分かった。
「む、娘っ! 何故だ、何故ドワーフに与する! 知らないのなら教えてやる。いいか? 王国への反逆は――」
「だから、関係ないってそんなこと――私は、ただ」
その声、只管に冷静。ナヨリ、たじろぎ。
「ただ、あんたに謝らせたいだけ」
今度はガウが――消える。
「おのれっ」
残った剣を握りしめ、緑に輝くナヨリの眼。
彼も、消える。




