黒い刀
「何だ? 何だと言うのだその馬鹿でかい得物はっ」
ナヨリ、動揺して。
確かに長い。剣にしては長過ぎる。
ガウの身長はウードに少し足りないくらいで、女の子としては高い。そのガウの身長に、剣は少し短いだけだった。
「ん? ああ、気にしないで? これくらい長い方が振り易い、ってだけだから」
ガウはずらり、と剣を鞘から引き抜く。
その、剣は。
「黒い――刀?」
刀身が真っ黒だった。それでいて艶めいており、まるで新月の夜空のように輝いている。
それはいつかミキシラの工房で見た、わずかに反りのある鍔付きの剣――と言うよりも『刀』だった。
『へぇ、驚いた……。こんなにも軽く出来るなんて』
ガウは二、三回その場で刀を振る。風を切る音に、ナヨリが怯えたように自分の剣を引き抜いた。
「き、貴様っ」
『ガウ! そんなこと、止めて!』
やっと群衆を抜け、人集りの最前列に出たウードは思わず竜語で叫ぶ。
『ウード? 大丈夫よ! 心配しないで』
少し離れているガウがこちらを見ながら笑う。
――だ、大丈夫って……。
ウードは戸惑って、ガウの持つ刀を食い入るように見つめる。
――いつの間にあんなことに。
と言うのも、当初ウードがミキシラに伝えたガウの要望は、細身で振り易い、折れにくく軽い剣が欲しい――それだけだ。
だが今、ウードの目の前でガウが振るのは、それとは全くかけ離れた、禍々しい黒い剣だ。
――ガウ、無茶はしないで……。
ウードの心配をよそに、ガウは軽々と刀を持ち上げて刀身を肩に担ぎ、その体勢でナヨリに対峙する。彼女の肩の上で横倒しになった黒刀は、それだけで凄まじい威圧感を放っていた。
空いた方の手を前に突き出し、掌を上向きにくいくいとナヨリを呼ぶ。
「お待たせ――さあ、かかって来な」にやり、ガウ、煽る。
「お、おのれっ」
ナヨリが素早く間合いを詰め剣を振り下ろして来る。
がちん。
金属の触れ合う音。
そのまま互いに打ち合って一合、二合――打ち合わされる度に何故かナヨリの剣だけが弾き飛ばされる。
ガウは長刀を自在に操り、ナヨリの剣の軌道にタイミング良く合わせているだけだ。
たったそれだけで、紙細工のようにナヨリの剣が彼の腕もろとも弾かれる。ナヨリは剣を飛ばされないようにするので精一杯だ。
「ば、バカなっ。こんな……!」
観衆から一斉に歓声が上がる。
『すげぇぞ、何だあの娘!』
『あんなでかい剣を、とんでもねぇ力だっ』
『いいぞ、殺っちまえ!』
――ガウ! 駄目だよ! 人を、殺すなんて!
ウードは気が気でない。だが、あそこへ割って入ることも出来ず、歯噛みするだけ。
やがて剣風が止み、肩で息をするナヨリ。構えは隙だらけ。
だがガウは楽しんでいるのか自分から打ち込みには行かず、その場で――笑っている。
「い、良いだろう……」
ふーっ、と息を吐き、間合いを取り直すナヨリ。
「エフロン様! もうおやめ下さい!」
背後に控えていた兵士達が悲痛な叫びをあげる。
「黙っていろ。まだ、これからだ」
「何? まだ何かあるの?」
彼女は涼しい顔。
「ふ、ふははははははははははっ」
出し抜けにナヨリの哄笑が広場に響き渡った。
取り巻く群衆は固唾をのんで見守っている。
『ガウ、もう止めて!』
ウードの叫び。
『こいつ、大したことないよ! だから』
大丈夫、とガウが答えようとして、目の前の男のただならぬ気配に彼女の超知覚が反応する。
――こいつ……?
本能的に間合いを広げ、初めて刀をちゃんと構えるガウ。
「小娘、今までの所行」
ナヨリが剣を二本とも引き抜く。
彼の瞳が緑色に染まった。
「後悔させてやる」




