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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
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謝らせてやる

 言い終わらぬうちに驚くべき敏捷性(びんしょうせい)を発揮し間合いを一歩で詰めたハリヤ。振り上げた剣を真っ直ぐにナヨリの肩口へ。



 高い金属音。




 弾き飛ばされたハリヤの剣が宙を舞い、広場の石畳に突き刺さった。

 「な、何とっ」



 呆然と自分の剣を見送っているハリヤに、ナヨリが返す刀で素早く切り下ろす。



 「がっ」

 ハリヤは片膝をつく。


 「ハリヤ様っ」

 悲鳴、ラベント。



 ハリヤ、手で押さえた肩口から血が(にじ)む。





 「愚か者が。言うことを聞かぬからそうなるのだ!」

 広場に響き渡るナヨリの高笑い。




 遠巻きに見ていた群衆はナヨリに恐怖し、短く悲鳴を上げるものもいた。(みな)、ナヨリに非難の目を向けている。




 『何で』

 ウードが、その光景を苦しそうに見つめる。



 『何でそうなっちゃうんだよ……』

 ――言葉が通じるのに、どうして分かり合えないんだ。




 『ウード』

 ガウが彼の腕を――掴んだ。




 『あいつらカナーティで私たちを攻撃してきた奴らの、仲間よね?』



 『う、うん』

 『そう。だったら――』




 言うが早いか、ガウはそこからゼロ助走で大きく前方へ跳躍した。


 (およ)そ人ならざる力だった。



 ウードがその方向を見上げるより早く、ガウは群衆(やじうま)の頭上を軽々と飛び越え、(うずくま)るハリヤの前にあっという間に着地する。

 「何だっ!」

 ハリヤに追撃をかけようとしていたナヨリは驚いて後方に飛んだ。



 『ガ、ガウっ!』

 ウードは上着に付いていたフードを目深(まぶか)にし、群衆を掻き分けて前へ。だが、そう簡単には進めない。




 『ちょっと! 通して、通して下さいっ』




 「ほう――? 何の用だ小娘」

 ナヨリは剣についた血を振り払い、鞘に仕舞う。

 首元に巻いてあるスカーフをきつめに結び直すガウ。外れて(うろこ)を見咎められると厄介だ。




 ガウは正面に対峙し、まっすぐにナヨリを睨み付ける。

 怒りに燃えた所作――それでいて、どこか冷静さを残した顔。今からの自分の行動に一片の迷いもない、澄み切った顔だった。




 ガウは、すっ、とナヨリを指さす。




 「お前から、まず」




 ガウの共通語が(うま)くなってる、とウードは気付く。



 「――謝らせてやる」

 そう言って、にこりと笑った。








 「謝らせる? 何を言って――」

 ハリヤ、ラベントはガウを気にしつつも後方に下がる。




 『ガ、ガウさん……?』

 そのハリヤ、ラベントと入れ替わるように、ガウの後方から細長い『何か』を抱えた刀工(とうこう)、ミキシラがおずおずと現れた。だが、ひどく戸惑った表情と荒い息――明らかにこの場には不似合いな男だ。



 『ああ、いましたね』ガウ、ミキシラを見て微笑む。

 ミキシラが現れたことには疑問はないようだ。まるで、この群衆でごった返す中、彼がいたことを知っていたように。



 『それ、貰えるますか?』彼の持ち物を指すガウ。

 かなり(つたな)いドワーフ語だ。



 『それ、私の家、持って来てくれたでしょ。違いませんか?』

 『え? ええ。昨日やっと完成して、今お宅にお待ちしようと――』



 ガウは近寄って来た(ミキシラ)から長細い『何か』を受け取る。渡し終え、足早にその場を離れるミキシラ。



 ガウは『何か』を覆っていた白い布を取り払う。長物(ながもの)に巻き付けられていた布はしゅるしゅる(・・・・・・)と小気味良い音を立てながら石畳に落ちていった。




 観衆からどよめきが起きる。




 現れたもの――それは。


 鞘に納められた、一振りの剣だった。


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