謝らせてやる
言い終わらぬうちに驚くべき敏捷性を発揮し間合いを一歩で詰めたハリヤ。振り上げた剣を真っ直ぐにナヨリの肩口へ。
高い金属音。
弾き飛ばされたハリヤの剣が宙を舞い、広場の石畳に突き刺さった。
「な、何とっ」
呆然と自分の剣を見送っているハリヤに、ナヨリが返す刀で素早く切り下ろす。
「がっ」
ハリヤは片膝をつく。
「ハリヤ様っ」
悲鳴、ラベント。
ハリヤ、手で押さえた肩口から血が滲む。
「愚か者が。言うことを聞かぬからそうなるのだ!」
広場に響き渡るナヨリの高笑い。
遠巻きに見ていた群衆はナヨリに恐怖し、短く悲鳴を上げるものもいた。皆、ナヨリに非難の目を向けている。
『何で』
ウードが、その光景を苦しそうに見つめる。
『何でそうなっちゃうんだよ……』
――言葉が通じるのに、どうして分かり合えないんだ。
『ウード』
ガウが彼の腕を――掴んだ。
『あいつらカナーティで私たちを攻撃してきた奴らの、仲間よね?』
『う、うん』
『そう。だったら――』
言うが早いか、ガウはそこからゼロ助走で大きく前方へ跳躍した。
凡そ人ならざる力だった。
ウードがその方向を見上げるより早く、ガウは群衆の頭上を軽々と飛び越え、蹲るハリヤの前にあっという間に着地する。
「何だっ!」
ハリヤに追撃をかけようとしていたナヨリは驚いて後方に飛んだ。
『ガ、ガウっ!』
ウードは上着に付いていたフードを目深にし、群衆を掻き分けて前へ。だが、そう簡単には進めない。
『ちょっと! 通して、通して下さいっ』
「ほう――? 何の用だ小娘」
ナヨリは剣についた血を振り払い、鞘に仕舞う。
首元に巻いてあるスカーフをきつめに結び直すガウ。外れて鱗を見咎められると厄介だ。
ガウは正面に対峙し、まっすぐにナヨリを睨み付ける。
怒りに燃えた所作――それでいて、どこか冷静さを残した顔。今からの自分の行動に一片の迷いもない、澄み切った顔だった。
ガウは、すっ、とナヨリを指さす。
「お前から、まず」
ガウの共通語が巧くなってる、とウードは気付く。
「――謝らせてやる」
そう言って、にこりと笑った。
「謝らせる? 何を言って――」
ハリヤ、ラベントはガウを気にしつつも後方に下がる。
『ガ、ガウさん……?』
そのハリヤ、ラベントと入れ替わるように、ガウの後方から細長い『何か』を抱えた刀工、ミキシラがおずおずと現れた。だが、ひどく戸惑った表情と荒い息――明らかにこの場には不似合いな男だ。
『ああ、いましたね』ガウ、ミキシラを見て微笑む。
ミキシラが現れたことには疑問はないようだ。まるで、この群衆でごった返す中、彼がいたことを知っていたように。
『それ、貰えるますか?』彼の持ち物を指すガウ。
かなり拙いドワーフ語だ。
『それ、私の家、持って来てくれたでしょ。違いませんか?』
『え? ええ。昨日やっと完成して、今お宅にお待ちしようと――』
ガウは近寄って来た彼から長細い『何か』を受け取る。渡し終え、足早にその場を離れるミキシラ。
ガウは『何か』を覆っていた白い布を取り払う。長物に巻き付けられていた布はしゅるしゅると小気味良い音を立てながら石畳に落ちていった。
観衆からどよめきが起きる。
現れたもの――それは。
鞘に納められた、一振りの剣だった。




