売られた喧嘩
昼寝をしていた二人は騒がしさで目を覚ました。
昼間でも吸音魔法の効果なのか居住区は割と静かなのだが、今は尋常ならざる程の怒号が遠くから聞こえて来ていた。
身支度もそこそこに二人が騒がしさに向かうと、商業区大通りの広場に黒山の人集りができていた。
『見えてる? ウード』
最近、内緒話は竜語でするようになっている二人。
ドワーフ達より背の高いウードとガウ。彼らの頭越しに見えたのは、鎧を着込んだ兵士達が数人のドワーフと睨み合っている光景だった。その中に、入国時にウードとガウを審査したラベントがいた。
『人間の兵隊、だよね』
『ええ、そのようね』
声に僅かな怒気をはらんでいるガウ。人間の兵隊は多分、ガウがこの世で大嫌いなものの一つだろう。
「お前等では話しにならん! ドワーフの長を呼べっ」
怒鳴り声を張り上げる男。ゼルスタン共通語だ。
見ると、男は上等そうな鎧を着て兵士達の最前列に立っていた。
――二本?
ウードは男が同じ長さの剣を腰の両側に帯びているのに気づいた。盾は持っていないようだ。
『二刀流ね、あいつ』
ガウが、ウードと同じように男を見ていた。
「まず、儂らで話を聞くと言っているだろうが」
ドワーフは男の前で堂々と腕を組み仁王立ちだ。
「ええい、この……」
埒の開かなさに苛立ったのか、男が剣の柄に手を掛けた。
「い、いけません! エフロン様っ」
真後ろにいた兵士が慌てて彼を押しとどめる。
と、控えていたドワーフ達も武器に手を置いている。
一触即発。
両者睨み合いになった。
「私は王の命を受けているんだぞっ、恐れ入ってさっさと――」
族長に会わせろ、言い募るエフロンに。
「幾ら王国からの使者とは言え頭ごなしにそのようなことは認められん。まずは儂らが――」
ドワーフの言い終わらないうちに。
エフロンの抜いた剣が、ドワーフの鼻先に突きつけられていた。
「――これは、どういうつもりかな?」
切っ先を睨みつけ、ドワーフが問う。
「さあ、どういうことかな?」
すっかり目の据わったエフロン。
「――おい、ラベント」
「はっ」
ラベントがそのドワーフに剣を渡す。
幅広の長剣だった。ウードはてっきり斧なのかと思ったが、斧では相手の間合いに勝てないと判断したのかもしれない。
「良いだろう。相手になろうじゃないか」
剣を構えるドワーフ。
わあっ、と周囲から歓声が上がる。
――この人はいつもこうだ……。
諦めたように、エフロンの背後の兵士達は彼らと距離を取るべく後退する。
『僕たちも下がろう』
ウードはガウの手を引く。
取り巻きのドワーフも後退。
広場の真ん中で、エフロン、ドワーフが剣を構えて睨み合う。
「改めて名を聞こうか、使者殿」
「俺はナヨリ・エフロン。取り敢えずお前を斬り捨てて、後ろの奴らが言うことを聞くようにしてやる」
「そうか、儂はハリヤ。やれるものなら――やってみるが良い!」




