家族
翌日。
朝食の後、ウードはリビングで絵を描いていた。
と、ガウがちょこちょこと寄って来て、紙の上を滑る彼の手元を興味深く眺める。
やがて彼の隣に椅子を置き、その作業にじっと見入る。
ウードは残っている利き腕で器用に線を重ねていく。
「――あ、昨日の人達?」
「うん。仲の良い家族だったから、描いてみたくなって」
彼らが外に出ることは無理でも、せめて街中で大手を振って生きられる様になればいいのに。
ウードはそんな願いを込めて、紙に線を重ねていく。
「森の家、あの絵、まだあるかな……」
遠い目をするガウ。
「きっとあるよ――いつか取りに行こう」
その声にガウは無言で同意する。
ウードのペンが紙を擦る音、時々止まったり、急に早くなったり、完全に動かなくなったり。
ガウは自分の聴覚、知覚を使ってその小気味良い音を楽しむ。まるで子供が歌う純朴な童謡のようなそれは、ガウの感覚を楽し気な波で優しく鳴らしていく。
こんな時間が続けばいいとガウは思う。
「こんな時間が続けばいいね」
ウードはそれを声に出して。
聞いたガウはこっくりと深く顎を引く。
「できた」
勢いよく紙を掲げるウード、感心したようにそれを見上げるガウ。
いつしか彼の肩に手を回して、寄り添うように。
セラー、トールが、レンカを真ん中に挟んでこちらを見て笑顔で立っている。
例え見た目が違っていても、三人は家族だ。ウード、ガウにはそう見えた。種族が同じだから家族なのではない。家族とは、そんな単位でまとまるものではないのだと思う。
三人の背後にはあの、上まで見渡せない本棚が描かれていた。
「いいね。すっごくいい」
「そう? ありがとう」
「あの人たちにあげようよ、これ!」
そうだね、と言って、ウードは自分の肩に回されたガウの手が悩ましくて、ほんの少しだけ身じろいだ。
その頃。
サティルナスの入り口を探して苛立っている集団の姿が、北の荒野にあった。
みな武装しており、三十人ほどの一団だ。
「何をしているのか!」
一人だけ上等な鎧に身を包んだ男が、兵士の一人を怒鳴りつける。部下の一人は半ばパニックになりながら、地図を頼りに地面に這いつくばって入口を探す。
だが――見つからない。それも無理はない、この辺りは似たような風景ばかりだ。
苛立ちが頂点に達した男は兵士に掴みかかろうとするが、別の兵士が慌ててそれを押し留める。
「ええい離せ!」
「エフロン様、どうか、今暫く!」
これ以上待てるか、と、エフロンと呼ばれた男が更に激昂する。
と。
「み、見つけましたっ」
救われたように叫ぶ兵士。
入り口を開け、先ほどの男を見た。
「全く、お前達ときたら……」
男は自分を押さえていた兵士たちを睨んで退かせると、ぶつぶつ言いながら入口の階段に足をかける。
心底ほっとした顔の兵士以下、一団がその後に続く。




