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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
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家族

 翌日。

 朝食の後、ウードはリビングで絵を描いていた。


 と、ガウがちょこちょこと寄って来て、紙の上を滑る彼の手元を興味深く眺める。


 やがて彼の隣に椅子を置き、その作業にじっと見入る。



 ウードは残っている利き腕で器用に線を重ねていく。



 「――あ、昨日の人達?」

 「うん。仲の良い家族だったから、描いてみたくなって」



 彼らが外に出ることは無理でも、せめて街中で大手を振って生きられる様になればいいのに。

 ウードはそんな願いを込めて、紙に線を重ねていく。



 「森の家、あの絵、まだあるかな……」

 遠い目をするガウ。



 「きっとあるよ――いつか取りに行こう」

 その声にガウは無言で同意する。



 ウードのペンが紙を(こす)る音、時々止まったり、急に早くなったり、完全に動かなくなったり。



 ガウは自分の聴覚、知覚を使ってその小気味良い音を楽しむ。まるで子供が歌う純朴な童謡のようなそれは、ガウの感覚を楽し気な波で優しく鳴らしていく。



 こんな時間が続けばいいとガウは思う。

 「こんな時間が続けばいいね」



 ウードはそれを声に出して。

 聞いたガウはこっくりと深く顎を引く。



 「できた」

 勢いよく紙を掲げるウード、感心したようにそれを見上げるガウ。



 いつしか彼の肩に手を回して、寄り添うように。

 セラー、トールが、レンカ(むすめ)を真ん中に挟んでこちらを見て笑顔で立っている。



 例え見た目が違っていても、三人は家族だ。ウード、ガウにはそう見えた。種族が同じだから家族なのではない。家族とは、そんな単位でまとまるものではないのだと思う。



 三人の背後にはあの、上まで見渡せない本棚が描かれていた。

 「いいね。すっごくいい」

 「そう? ありがとう」

 「あの人たちにあげようよ、これ!」

 そうだね、と言って、ウードは自分の肩に回されたガウの手が悩ましくて、ほんの少しだけ身じろいだ。





 その頃。

 サティルナスの入り口を探して苛立っている集団の姿が、北の荒野にあった。

 みな武装しており、三十人ほどの一団だ。



 

 「何をしているのか!」

 一人だけ上等な鎧に身を包んだ男が、兵士の一人を怒鳴りつける。部下の一人は半ばパニックになりながら、地図を頼りに地面に這いつくばって入口を探す。



 だが――見つからない。それも無理はない、この辺りは似たような風景ばかりだ。



 苛立ちが頂点に達した男は兵士に掴みかかろうとするが、別の兵士が慌ててそれを押し留める。

 「ええい離せ!」

 「エフロン様、どうか、今(しばら)く!」

 これ以上待てるか、と、エフロンと呼ばれた男が更に激昂(げっこう)する。


 と。


 「み、見つけましたっ」

 救われたように叫ぶ兵士。



 入り口を開け、先ほどの男を見た。

 「全く、お前達ときたら……」



 男は自分を押さえていた兵士たちを睨んで退かせると、ぶつぶつ言いながら入口の階段に足をかける。

 心底ほっとした顔の兵士以下、一団がその後に続く。

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