信じよう
少し前。
行政区、議事堂の会議室。
「今週の入国者は?」
「は。こちらでございます」
上役らしき人間に入国書類の束を渡すラベント。
毎週一度、こうして街の入出を管理局のメンバーで確認している。
怪しい人物、何か目を引く人物については密かに監視をつけるなどしている。他族のスパイが紛れ込むこともあるため、怪しい人物がいればこの場で報告される。
「例の少年は? ウードと言ったか」
「取り敢えずトマリをつけています」とラベント。
「で、間違いないのか」
ラベントは耳に触れ、少し難しい顔をした。
――ガウ、と言うあの同行の少女も、少年の力については知らないようだったが……、さて。
「まだ何とも言えないです。ただ、可能性はあります」
上役はウードの書類を息をするのも忘れて見つめる。
「明日の彼らの予定は?」
「トマリに工業区を回らせようかと考えております」
「分かった。逐次報告するように」
「同行の少女は? どういう経緯であの少年と?」
別の上役がラベントに聞いた。
「いえ、それはまだ、何も」
「何かあるかもしれん。注意しておくように」
「トマリに伝えます」
やっと書類から顔を上げる上役。
もしこの少年が『万能の話者』であれば。
――ドワーフの歴史が変わる。
いや、やっと前に進むと言うべきか。
だがそうなったところで、全ては、遅い。
――いずれにせよ、見極めねばなるまいな。
ラベントに最大限の注意を払うよう伝え、会議は終わった。
真夜中。
ガウはベッドに入ったが、眠れずにいる。
隣のベッドでウードは眠っているのか――暗闇の中、気配だけでは何とも言えなかった。
ほんらい言語魔法とは、聞き取りや発音を補助するだけの魔法だ。つまり、言語の理解そのものを助けるものではなく、未知の言語を話せるようになる魔法ではない。そのくらいの知識はガウにもある。
――嘘、だよね、多分。
寝返りをうつ。
そんな嘘をウードがつく理由を考えた。
だが、何も思い浮かばない。
分かるのは、その嘘がガウを害する意図から出たものではないだろうと言うことだけ。
――だから、きっと……。
ガウは、ウードを信じようと思っている。
彼はいつだって自分を気にかけてくれている――そのことをひしひしと感じていた。
――だよね? ね? ウード。
後頭部に問い掛ける。
当然ながら、答えはなかった。




