ウードの力
大通りへ出た途端、一気に視界が開けた。
「わぁっ!」ルタが歓声を上げる。
無理もない。色とりどりの屋台、熱っぽく商品を奨める商人、その商品をじっくり吟味する客、客引きの胴間声、道を行き交う沢山の人々――ルタには何もかもが新鮮で、刺激的。
瞳をきらきらさせるルタを横目にウードは辺りを見回す。
探すべきなのはオーガの大人。確か大人の身長は人間を優に越えるはず。
――そんなのが、いれば……。
すると、ウードは少し離れた人混みの中に頭一つ抜けている人物がいるのに眼を止める。何かを隠すようにフードを目深に被り、不安そうにきょろきょろしている。彼の周囲にも同じような格好をした者が三人ほどいた。
――見つけた。
ルタの手を引き、ウードはそちらへ進んでいく。フードの男も気付いたのか、向こうも人混みをかき分けて近付いてくる。
「ルタ!」
「お父さん!」
父親に抱き上げられルタは満面の笑みだ。
ウードはその光景を見上げる。父親はよほど不安だったのか、ルタを抱え涙を滲ませていた。
――仲いいなぁ……。
ウードは羨ましく思う。最近、父親とうまくいっていない。
「ありがとう、君のおかげで助かった」
人混みを外れ、ウードはルタの父親と言葉を交わしていた。
「いえいえ、何事もなくて良かったです」
「なんと――流暢なオーガ語だな。どうやって学んだ?」
「あ、いえ、独学です。日常会話程度ですし」
「そうか。まあいい、俺はサルク。この恩は一生忘れない」
「いえ、大したことじゃありませんから」
ウードはそう言って立ち去ろうとする。
「どうだ、一緒に食事でも」
「いえ、お気持ちだけで」
「まあまあ、そんなこと言わず」
しきりにすすめてくるサルクをたしなめ、ウードはどうにかその場を後にする。
――やれやれ……。
何だかひどく疲れた。『力』を使うとそうなることをウードは初めて知る。
――早く家に帰って休もう。
「ウード、ありがとねっ」
振り返ると、父親に抱き抱えられたルタが手を振っている。周囲の人間達はあまりに背の高い男とその子供に、怪訝な視線を投げかけていく。
にこりとして、ルタに手を振り返すウード。
それから、ウードは祭りの人混みの中に消えていった。