魔獣の群れ
身体の妙な重さでウードは目を覚ました。
既に消えた焚き火の跡から漂う燃えかすの臭いが鼻をくすぐる。
ウードは身体をよじり、重さの正体を探す。
――ああ……。
正体は――ガウだった。
どういうわけか、彼女はウードの右側にしがみつくようにして眠っている。
「ガウ――起きて」
ウードは自分の半身を軽く揺する。ところがガウはよほど安心し切っているのか、そもそも眠りが深い性質なのか目を――醒まさない。
諦めたウードは彼女が目覚めるまでこのままの体勢でいることにする。
――それに、しても……。
ガウの存在を、空気を、こんな近くに感じるなんて。
ウードにはそれが信じられない、何処か夢の中の出来事に感じている。
こんなに長く行動を共にすることになるなんて、森の家にいた頃には考えもしなかった。
出来るだけこの時間が続いて欲しい、とウードは思う。
だが、ガウは今の状況をどう捉えているのだろうか。今こうしていることは、彼女にとってどんな意味があるのだろう。
「ん……」
やがてガウが身体を揺らし、目覚めるようだった。
「ご、ごめんっ」
ガウがウードから離れ、顔を真っ赤にして謝っている。
ウードは笑って、大丈夫だよ、と告げる。
「わ、私としたことが……」
ガウは地面に座り直し、俯いてわなわなとしている。
「そ、そんなに気にしなくても」
あの山小屋に運び込んでからも、ウードは長く目を覚まさなかった。おまけに熱を出し寒さで震えていたから、自分の体温で暖めるためガウはずっと添い寝をしていた。
――それが、つい癖にっ……。
ガウが後悔している最中、ウードは立ち上がってその手を引いた。
「暖かかったよ、ありがとね」
引っ張られて、ガウも立ち上がる。
「う、うん」
「さあ行こう、街の入口を探さなくちゃ」
二人は手早く荷物をまとめ、洞窟を後にする。
――そ、そうだよね、そんなに気にしなくても、いいよね。
ウードの横顔を見る。
いつものようににこにこして、優しい物腰。
――でもどう思って、いるんだろう……。
ガウのことを、ウードは?
是非それを確かめてみたかったが、ガウの超知覚でもウードの心の中までは、分からなかった。
荒野。
山を下りた辺りは岩場だったが、少し進むと一面の荒れ野が広がっていた。草木一本生えていない、それが地平線の彼方まで続いている。
つまり、見たところ、ここには何の構造物もないのだ。
「ガウに聞いていなかったら、ここに街があるなんて信じられないよ」
「そうね。でも――ほら」
と、ガウが地面に手を当てて眼を細めた。
ウードも同じようにして目を見開いた。
地面が、ほんのりと熱を帯びている。
「おお」
「これが、彼らがいる証拠、ってところね」
――そうか、昨日……。
洞窟の中が妙に暖かかったのもこれのおかげかもしれない。ドワーフが使うエネルギーの放出か何かで、地表面が温められているのか。
「彼らはこの下に広大な街を築いている。まあ、知らなければ素通りでしょうね」
二人はガウの記憶を頼りに、洞窟を出てからはずっと西に歩いている。
いい気候だった。空は高く、雲一つない。少し風が冷たく気温も低いが、足下から上がってくる熱のおかげであまり寒さを感じなかった。
歩き続けて、もうそろそろかな、とガウが呟いた――時に、二人は小型の魔獣の群れに取り囲まれた。




