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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
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洞窟

 更に下って。

 何度か魔獣に遭遇したが、そのたびにガウが撃退し下山はおおむね順調だった。


 だが、陽が陰ってきた頃ガウが疲れた様子を見せ始めた。少し息を切らして、足取りも重そうだ。



 「ガウ?」

 ウードが心配そうに声を掛けると、彼女は無言でにこりとした。



 ――しんどそうだな。

 吹き付ける風の冷たさにウードは身震いして、はたと気づいた。そうか、身体が冷えてきたのか、と。



 「少し休もうか」

 ウードはガウの手を引いて下山道の脇にそれる。



 少し歩くと、開けた草原に出たので二人はそこで腰を下ろし、ウードが火を(おこ)した。



 「ごめんね」

 ガウが焚き火に手をかざす。大丈夫だよ、とウードは持ってきていた干し肉をガウに渡す。



 「やっぱり、まるっきり人にはなれないんだよね、私」

 「うん、でも、気にすることないよ」

 干し肉をかじる二人。








 「母様(かあさま)にね、これからは人の姿で暮らしなさいって言われたの」

 身体が温まり、先ほどよりは楽になった様子のガウ。



 「この先はもう――竜では生きられないって」

 その言葉を、ガウの母親はどんな気持ちで発したのだろう。

 そして(ガウ)は、それをどんな気持ちで聞いたのだろう。何かとても悲しい話を聞いたような気がして、ウードは押し黙る。

 「ウード?」

 ウードは、もう少しで滲みそうだった涙をぐっとこらえて、彼女に小さく笑いかける。


 ――そもそもどうして、(ガウ)が、(ガウ)として生きられないんだ。


 人がありもしない銀鱗の伝説を信じた所為なのか。そんな下らないことで竜は――狩り尽くされて。


 僕が何とかできないだろうか、とウードは思う。

 人間と竜の関係で言えば、人間が一方的だからこんなことが起きるのだ。相手の気持ちを(おもんぱか)ることなど微塵(みじん)もせず。


 言葉が通じ、その上で互いにもっとコミュニケーションが取れさえすれば今頃、竜たちはまだ空を自由に飛んでいたかもしれないのに――竜と人は、友達になれていたかもしれないのに。



 ――変えてみたい。いや、変えなくちゃ。



 言葉の力で、世界を。

 世界の(ルール)を、僕の力で。

 ウードは決意する。








 暗くなる前に何とか下山できた。

 とりあえず一夜を明かし、サティルナスには翌朝向かうことにして、二人はどこか野宿できそうな場所を探す。



 こんな時は開けた場所がいいのか、それとも身を隠せる洞窟などがいいのか、ウードには知識がない。



 その点、ガウは行動に迷いがなかった。

 この辺の地理に詳しいのもあるだろうが、あっさりと洞窟を見つけた。








 洞窟の中、二人は火を前に向かい合って座っている。夜はもう少し冷えるかと思われたが、不思議とあまり寒さを感じなかった。やはり洞窟を選んで正解だったとウードは安堵する。



 「サティルナスって、どんなところ?」とウード。

 「そうだねぇ、何と言ったらいいか……」

 別に隣り合って座っても良かったのだが、何となく森の家での距離感が落ち着くような気がしたウード。もしかしたらガウもそうなのだろうか。



 「機械化が進んでる。あ、機械ってわかる?」

 ウードは頷く。父に連れられて見て回った王宮にも、少しだが機械の類があった。



 「歯車で動く大きな時計とか、機織(はたお)り機とかでしょ?」



 「そうそう。でも、もっともっと複雑なの」

 「へええ」

 そう聞くと、ウードはなんだかわくわくしてきた。



 「ドワーフは……、そうね、良い人が多い、かな」

 「でも、余所者(よそもの)を受け入れてくれるの?」

 「たぶん大丈夫だと思う。確か、彼らの信仰している神と関係があって」



 ガウによれば、ドワーフが信仰している神は慈悲深くあれと教えているらしく、困っているものを助け施すのは、ドワーフとしてはとても徳の高い行為に当たるのだそうだ。



 「なるほど、何か、良い神様だね」

 そうだね、とガウ。

 「明日は早くに出るわ。サティルナスの入り口を見つけるのに少し時間がかかるかもしれないし」

 「わかった」

 まだ寝るには早い時間だと思えたが、二人はその場で横になり、眼を閉じた。

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