下山
それから半月が過ぎた。
いよいよウードの体力が戻ってきた頃合いで、いよいよドワーフの街、サティルナスを目指すことになった。
ガウによれば街はこの山の麓にある。
ただし、地表に構造物はない。全て地下に作られているらしかった。
着の身着のままで小屋にいた二人はとにかく新しい衣服がほしかった。洗濯ではどうにも限界だ。
特にウードの上着は左腕の辺りが黒ずんでいて、痛々しかった。
ある日の早朝。
「準備はいい?」
「うん、まあ、何も持って行くものはないしね――あ、ウード」
ガウはウードに木の棒を渡してくる。先端が鋭くなっていて、剣に見えなくもない。
「これは?」
「まあ、護身用かな」
ここに来た時は深夜で、竜の姿を見たものは殆どいないだろう。だが、もういちど竜になり山を下りれば目撃されてしまう確率が高くなる。そうなればまた、人間が狩りに来ないとも限らない。
できるだけ目立たず、秘かに。
となれば、人の姿のまま下山するしかない。
つまりそれは、魔獣と遭遇するかもしれないということでもある。
「いざとなったら私が守るから、ウードは安心して」
少しおどけた調子で言うガウに、彼は笑顔を返した。
半日もあれば下山できる、と言うガウ。
とりあえずの食糧と木剣を持って二人は山を下り始めた。
何かが襲ってきても対処できるように、ガウが前衛を務める。
日に日に秋の気配が濃くなっている。
冬はもう、すぐそこだ。
この山は、人は滅多に来ない割にはきちんと登山道が作られている。
ひょっとしたら、山体を信奉する文化でもあるのだろうか。
この道を使って行けるところに、山の神を祀った祠でもあるのかもしれない。
ウードはそんなことを考える。
二人は緩やかに下るその道をゆっくりと歩いていく。
「ガウは冬って?」
「ん? ――ああ、冬眠するかってこと?」
ガウは首を振る。
「冬の間は南に行って過ごすの」
南は冬でも暑いくらいだから、と言って何かを思い出したようにふふ、と笑った。
「どうしたの?」
ウードに、カザイアで母と暮らしていた日々のことを話すガウ。
「――それでね、滞在していた屋敷のおじさんが、まじめというか、堅物で、私に一生懸命に剣を教えてくれたの」
「へえ、だから、あんなに剣の扱いが上手かったんだね」
「ええ、まあね」
期待していいわよ、と言うガウ。
「うん。でもできれば――」
そんなことにはならないで欲しい、とウードが言い掛けた時、脇の茂みから何かが飛び出してきた。
「ウード、下がって」
木剣を構えるガウ。
対峙したのは小型の魔獣。
四つ足で全身毛むくじゃら。口元には牙も生えている。
魔獣は短く吠えると、ガウめがけて飛びかかった。
飛び上がって露わになった魔獣の腹に、ガウは鋭い突きを入れる。魔獣は吹き飛ばされ、坂道を転げ落ちていった。
「お見事」
「どもども」
振り返って、ガウは歯を見せた。




