リンクスの消息
王都から何人かの密偵が放たれたのは、ガウとウードが飛び去ってから数日後のことだった。
マルフォントは彼らに、二つのことを命じていた。
一つ、竜の行方を探し出し、銀鱗を奪取すること。おそらく人型であろうから容易だとは思うが充分に留意すること。生死は問わない。ただし銀鱗を持ち帰れ。
二つ、リンクスの息子、トゥードを生きたまま連れてくること。
――あの時。
マルフォントは執務室のいつもの席に座り、腕を組む。
確かに、トゥードはあの竜と会話していた。
それはつまり、程度はともかく竜語を――操ったということに他ならない。
竜語は世界でも最難解の言語だと言われている。
初めて聞いた人間はまずそれが言語だとは認識できないだろう。同じものでも午前と午後で単語が変わる、などという真偽不確かな話まであるほどだ。
――それを、リンクスの倅が?
いくら父親から言語魔法を習ったとしても、それだけで話せるようになるのだろうか?
考えていく内、マルフォントの脳裏に閃くものがあった。
――なるほど万能の話者であれば。
確かに、万能の話者であれば竜語でも難なく習得できるのかもしれない。
何より、あらゆる種族の言語を解すればこれほど国家運営に多大な貢献をしてくれるものはないだろう。
確かめねばならない、マルフォントは考える。
――銀鱗と万能の話者、どちらも手に入れられれば。
と、そこで伝令が執務室に入って来て、マルフォントの妄想は破られた。
「なに? リンクスが?」
それは、リンクスとエルフの同僚、二人の消息を探索に行かせていた密偵からの連絡を伝えるものだった。
「は。どうやら――カザイアにて捕らわれたとのこと」
――オーガ共め。
「すぐに兵士長を呼べ」
恭しく頭を下げ、伝令は部屋を出ていった。
――裏切ったのか? サルクよ。
彼とは何度も酒を飲み、幾晩も語り明かしたものだが。
それもこれも。
――老いたからか、私が。
マルフォントは暗澹たる気分になる。
結局、全ての問題の根元はそこにあるような気がした。
やがて兵士長が執務室を訪れる。
「カザイアに向かう。急ぎ準備せよ」
「そ、それは――?」
「心配せずとも良い。戦争をしに行くのではないよ」
兵士長がほっ、と息をつくのを、マルフォントは見逃さなかった。




