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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第二部 話者と剣士
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話者の進化

 小動物を何匹か仕留め、ガウが小屋に帰って来たのは昼を少し回った頃だった。



 小屋に入ると――ウードが半身を起こしてぼんやりとしていた。



 「あぁっ!」



 思わず獲物を取り落とすガウ。

 ウードは、のろのろ緩慢な動作でガウを見た。

 そして、にっこりと笑いながらぼろぼろと涙をこぼす。



 「ああ、ガウ。良かった、居なくなったのかと……」

 「ウードッ!」

 ガウはベッドに駆け寄り彼に抱きつく。



 ウードも抱き寄せようとして、右腕しかないために少しバランスを崩す。

 切り裂かれた上着からゆっくりと、既にガウの身体にたどり着いていた自分の右腕に、ウードは左腕をぎこちなく添えた。



 左腕は、よく見ると肘は残っているようだった。曲げのばしが出来ている。



 「大丈夫?」

 ガウが心配そうに声を掛ける。自分の背中に回されたウードの腕の感触に戸惑ったのだろう。



 「大丈夫だよ。生きてこうして、またガウ(きみ)に会えたし」

 僕はそれだけで充分、とウードは続けて、またにこりとした。



 ガウは戸惑いの顔を隠そうとして、うまく行かない。やがてウードを優しく引き離した。



 「そう、なら良かったわ」

 努めて明るい顔。



 「ああ、これ……」

 ガウはウードの右頬に触れる。

 ライフルの射線が通過した跡が、(そこ)をえぐり取っていた。


 「これも……」

 優しく左腕に触れるガウ。



 顔を下げたまま、落ちていく涙。

 「痛かったよね……。ごめん、ごめんね……」



 後は声にならない。しゃくり上げる。



 ウードは、そんなガウの頭を撫でた。

 「いいんだよ。君が無事で本当に良かった……」



 「うっ、うっ……」

 ガウの頭を引き寄せて、ウードは彼女が泣くに任せた。











 「でも、ガウ(きみ)こそ――大丈夫?」

 暫くして泣きやんだガウ。



 ガウはあの時、攻竜兵器を右脚と右腕に受けた。

 てっきりそのまま溶けて落ちるものだと思っていたが、何故か崩壊は止まり、それどころか凄まじいスピードで回復していた。



 「平気へいき。ほら、この通り、何ともないでしょ?」

 言って、右腕をぐるぐると回した。



 ウードはしかし、怪訝な顔でガウを見返す。

 「ん? どうかした?」



 「うん……、いや、別に大したことじゃないんだけど、ガウってそんな喋り方だったっけ? もっとこう、男っぽいというか、なんじゃ、とか、どうしたんじゃ、とか、そんな感じの……」



 話が分からないガウは首を傾げる。



 「な、何の話? 私はずっとこの口調なのだけど……」



 ――あれ?

 首をひねるウード。




 ――ガウは変えていない……?

 とすれば答えは一つだ。



 ――こちらの聞こえ方が、変わった?

 『万能の話者』と言う加護には謎が多い。

 図書館で調べた時のことを思い出すウード。

 ――もしかしたら、何かのきっかけでより自然に竜語が聞こえるようになった?

 その推論が、案外当たっているような気がする。



 ――つまり、これは。

 『万能の話者』の能力が進化した、と言うことかもしれない。

 ウードはそこまで考えて一人(ひとり)頷いた。



 「でも、そう言われてみれば……」

 と、ガウ。顎に手を当てて思案顔だ。

 


 「ウードの喋り方、変わったね」

 「えええ?」



 戸惑う。だが確かに、可能性はある。



 「ち、ちなみに――前はどんな?」ウード、恐る恐る。

 「んー、何て言うか……、とてもぶっきらぼうな感じだったわ」

 それにもっと命令形だった、と言うガウ。



 ウードは予想外の答えにちょっと顔が赤くなる。

 今まで誰かに命令なんてしたことのないウードだ。




 「私、あの話し方、あんまり好きじゃなかったのよね」

 そう言ってくすくすと笑うガウ。




 今が本来の話し方なんだ、君の前で格好つけてたんだよ――ウードは自虐気味に笑った。



 「そうなんだ。良かったわ。本当はそんなに、優しい口調なのね」

 ガウ、ウードを柔らかく眺めて。



 「そっちの話し方の方が、好きよ」

 その笑顔が不意に射し込んだ陽光に輝いて、ウードの心拍数を上げた。 

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