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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
幕間(一部と二部の間に)
38/250

あたしに何も言わないで

 カナーティの街。

 ティアナ・ロクスはウードの屋敷からとぼとぼと帰路についていた。


 短めの黒髪に都会で流行りの蝶のアクセサリーを着け、普段は絶対に着ないと自分でも思うような、フリルのついた白いシャツ。そして、淡い青のスカート。


 

 本人は相当の勇気を出してウードに会いに行った。だが、屋敷には今日も誰もいなかった――もう何日も不在だった。



 ティアナは大きなため息をもらす。



 新学期が始まってから一度もウードを見ていない。クラスではウードと仲の良い方だと自負していたティアナは、彼から何も聞かされていないことに愕然とした。先生に確認しても理由はわからないようだった。



 実はティアナは、この夏のあいだ何度もここへ来ようとしては寸前で(くじ)けていた。



 ――こんなことならばもっと早くに来れば良かった。

 そうすればきっと会えたに違いない。



 悔やんでも悔やみきれないティアナだった。





 ――白い竜が北の空に飛んでいったらしいぞ。

 ――なんでも、王軍とやり合ったそうな。

 ――ヤツら攻竜兵器まで出したって言うぞ。

 ――へぇ、それでも逃げられた?

 ――存外、王軍も頼りない……。

 ――銀鱗(ぎんりん)を欲しがるとは、マルフォント王も歳をお取りになられたのぉ……。




 街路のそこかしこから漏れてくる声。

 白いドラゴンが街の東門に現れ、飛び去ってから何日も経つのにまだ興奮さめやらぬようだ。






 あの夜。

 騒ぎを聞いてティアナの一家も外に出た。


 あちこちから同じように人が出ていて、みな東門の方を(ゆび)さしている。



 見上げた先――真っ暗な闇の中。




 ティアナは初めて見る、真っ白なドラゴンが北に向けて飛び去るところだった。

 ドラゴンの美しさに目を奪われながら、ティアナはその口元に違和感を覚える。

 それはあまりに彼方で、ティアナにもはっきりとは見えなかった。



 だが、白い竜は確かに――何かを。



 ――(くわ)えている?

 もっとよく見ようと目を凝らした瞬間、竜は加速しあっという間に見えなくなった。






 それから。

 ただの偶然かもしれないがそこからウードを見かけなくなった。



 ――以前はよく、窓際で絵を描いているのが見えたのに。

 言いようのない胸騒ぎは日に日に大きくなっている。



 確かに根拠はない。



 根拠はないがティアナは『あれ』が――ウードだったのではないか、そんな疑念が消せない。



 ティアナは(かぶり)を振る。

 ――ううん。そんなはず無いわ。



 きっと明日には帰って来て、またあの笑顔を見せてくれるはずだ。そうに違いない。




 ティアナは自宅近くまで戻って来る。

 目を伏せて、さっきの悪い予感を振り払おうとする。



 ――でも……。

 だが、容易には消えてくれない。



 ――ウード、早く……、帰って来なさいよ。

 不意にじわりと滲んだ涙を手でこする。



 ――どこ行ったのよ、あたしに、何も言わないで……。



 何故自分が泣くのか、その理由もはっきりとは分からないまま――どうにも涙は止まらなかった。

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