そして、逃避行
ある種の植物の実から精製された液体が竜の体細胞を崩壊させる――この事に気付いたのは人間だった。彼らはこの液体を沢山のガラス容器に封入し、砲弾に詰め、着弾と同時に竜の表皮に降りかかるようにした。
これが攻竜兵器として広く人間社会に広まった。
竜にとって、悲劇の始まりだった。
――身体が……崩れる……!
ガウは手足をばたばたさせて煙を振り払おうとするも崩壊は止まらない。
――どうしよう! どうすれば!
パニックになる寸前、
『ガウ……!』
ガウの超聴覚が小さな声を拾った。
見ると、ウードが身体を起こそうとしていた。
『ウード! お前――生きて?』
『逃げるんだガウ……僕のことは、い、いいから……っ』
また倒れるウード。
彼に、まだ息がある。ガウは心の底から安堵する。
とは言え、一体どれだけの血を流したのか。
――?
だが、ウードの周囲の血だまりはそれほど広がっていない。
それどころか――左腕の出血も止まっているようにガウには見えた。
とにかく、ウードは生きている。ガウは落ち着きを取り戻した。
『ウード、しっかりするんじゃぞ!』
ガウは屈み込んでウードを咥えると、力を振り絞って翼を羽ばたかせた。
「い、いかん! まだか、まだ撃てんのかっ」
「駄目です! 今しばらく!」
ガウはぐんぐん高度を上げていく。
あっという間に、小さな白い点に見えるほど遠ざかった。
――ああ、行ってしまう。儂の銀鱗が!
マルフォントは天を仰いでガウを引き留めようとするかのように両手を中空に泳がせた。だが、それは虚しく空を切るばかり。
兵士長はどこかほっとしている。みっともなく狼狽える王に、冷ややかな視線さえ投げる。
――攻竜兵器など、雨で、全て壊れれば良かったのだ。
そんなことを考えていた。
――今日のこと、許せよ。
兵士長は、王に見えないところで天空のガウとウードに敬礼する。
ガウはそのまま、空の彼方に飛び去った。
そうしてすぐに――見えなくなった。
これで第一部は終了です。
第二部は書き終わったら再開します。




