初めて名を呼んで
とっさにウードはガウを庇うように前に出た。
東門を出たところでゼルスタン兵士達が半円状に展開していた。
どの方位にも隙はなく、突破は難しそうだ。
兵士達の背後には巨大な大砲のようなものが幾つも設置されていた。そして、その全てが二人を狙っている。
ウードは知らなかったが、それは前ゼルスタン国王が倉庫に仕舞ってあった巧竜兵器と呼ばれるものだった。
ウードとガウを遠巻きにするゼルスタン兵士達。
彼らはじりじりとその距離を詰めてくる。
二人は後ずさり、いま出たばかりの東門に少しずつ押し込まれていく。
「こ、これは?」
「ぼ、僕にも分からない」
やがて兵士達の隊列の後ろから一人の男が進み出てきた。
彼は二人の少し手前まで進んで、止まった。
「リンクスの息子よ」
マルフォント王は、表情を変えずウードに語りかける。
「お主、いつから竜を隠していた?」
気が付くとウードの背中にすっぽりと隠れてしまっているガウ。マルフォント王の鋭い眼光、狂気をはらんだ眼光に怯えたのかも知れない。
「まあ良い。さあ、そこをどけ――竜を、引き渡せ」
「嫌です!」
何故かひりつく喉でウードは大声を出す。
「ガウは、誰にも渡さない!」
『おい、何を話しているのじゃ?』
『大丈夫だよ、ガウ。すぐに解放される。僕達は何も悪いことはしていないんだ』
そのやりとりを見ていたマルフォントの片眉が上がる。
「今のは、竜の言葉か……?」
「あなたに、関係ないでしょっ」
頑ななウードに、王は何度も頭を振った。
「ではどうあっても渡さぬと――」
「くどいですよ! ガウは、誰にも――」
ウードが言い終わらぬ内に、マルフォント王が右手をあげた。
「王よ! 本当に宜しいのですか! 相手は……」
マルフォントの後方に控えていた兵士長が叫ぶ。
「構わぬ――リンクスも分かってくれる」
――な、何を勝手な……。
だが、それを口に出すまでの勇気はない。それに王の目には、もはや銀鱗以外のものは映っていないようだった。
――許せ。
兵士長は部下の兵士に合図を送る。
すると、遠く、ウードの正面に位置している兵士の一人が銃を構え、ウードに向けて引鉄を引いた。
ぱんっ、と言う乾いた音。
ウードが右頬を押さえてうずくまった。
――何だ? 何が……。
激しい痛みが襲う。火箸を直に当てられたような、灼ける痛み。
弾は右頬をえぐっていた。狙ってやったのだとすれば凄まじい練度だ。
「あああぁっ!」たまらず悲鳴を上げるウード。
「――それは警告だ。さあ、そこをどけ」
マルフォントが距離を詰め、ウードをどかそうと手を伸ばす。
「駄目だっ」
ウードは王の手を右手で払い落とす。
不意をつかれ、マルフォントは一瞬固まる。
だがすぐに冷静さを取り戻し、王は剣を抜いた。
「な、何を!」
マルフォントは何も言わずにウードを押しのけ、そのままガウに――切りかかった。
ひゅんっ。
風を切る音。同時に、ウードの左腕が空を舞い、どさりと地面に落ちた。
いつの間にかガウを突き飛ばし、ウードが王の斬撃を受けていた。
「貴様っ、なぜ竜を庇う!」
ガウは何が起きたのか理解できなかった。
ただ、目の前で崩れ落ちていくウードを見つめていた。
『ガウ、逃げて……、君なら……』
ウードの声。彼は倒れ、そのまま動かなくなる。
みるみると血だまりが広がっていく。
『あ、あぁ……』
目の前の男が剣を仕舞いこちらに近付いてくる。
「さあ、こっちへ……」
ガウには聞き慣れない声、理解できない言葉。
倒れ、動かなくなったウード。
ガウは彼に駆け寄る。
だが脈が――ない。心臓も動いてはいなかった。
『ウードーーッ!』
絶叫。
やがて――咆哮。
およそ少女とは思えない、大気を切り裂くような鋭く長い、聞くものの全身を恐怖で揺さぶるような禍々しい叫び。
――よくも!
ガウの中で攻撃性が最大にまで高まる。この場にいる全員を許せない、みんな――殺してやる。
殺意がガウを、竜の姿へ変えていく。
ガウの身体が光に包まれ、彼女はあっという間に巨大化していく。




