東へ
マルフォントの一行はガウの家の辺りで陣を張り、野営していた。
彼はテントの一つを占有し、中央に椅子を置いて座っていた。
腕組みをし、目を閉じている。
依然、王は苛立っている。
――リンクスの奴め……。
どうしてこんなことを黙っていたのか。
――或いは、知らなかったのか?
それはあり得る気がした。
リンクスと息子の関係性がどうだったかマルフォントは知らないが、多感な年頃だ。父親に秘密にしていることの一つや二つ、あって当然だろう。
――とにかく、リンクスの息子と竜の少女を捕まえねばな。
間もなく、街に放った兵士が戻ってくる頃合いだ。
果たして一人の兵士がテントの前に立ち、王に訪いを入れた。
「どうだ」
入って来た兵士は膝を突いて答える。
「は。フォルトッド様の屋敷に行きましたが人気はなく――」
ただ、と兵士は続ける。
「東へ?」
少年と少女の二人連れが東門に向かうのを見たと言う。
「分かった」
兵士を下がらせ、自身もテントを出た。
兵士長を呼びつける。
「東門だ。すぐに出るぞ。街の外周を行けば先回りできるはずだ」
マルフォントは返事も聞かずに自らの馬車に乗る。
兵士長は小さなため息をつくと、部隊に声をかけ、出発準備にかかる。
二人は手を取り合って東門へ急いでいた。
「どうしたと言うんじゃ!」
ウードはそれに答えず、ひたすら走る。
――君を、この国の王様が殺しに来るなんて。
そんなことは言えない。
――とにかく逃げなければ。
夜の街は魔法光の明かりを頼りにちらほらと酒場が営業されているだけで、人通りは疎らだ。
「いい加減にせんかっ」
ガウがウードの手を振り払う。
「ガウ! 急がないと……」
慌てて手を取り直そうとするウード、拒むガウ。
二人は人気のない街路の石畳の上で見つめ合う。
「別にお前に着いて行くのは構わん。説明があればな」
「ごめん、ガウ。後でちゃんと説明する」
「嫌じゃ、いま説明を――」
ウードはガウを引き寄せ、抱きしめる。
「こ、こらっ。な、何を……」
「ごめん――ほんとにごめんね。でも、今は」
ガウをそっと引き離し、両肩に手を置いて、彼女の目を見るウード。
「僕を信じて――欲しい」
「……っ」
声にならない声を上げるガウ。ウードから目をそらし、肩に置かれた手を払う。
「ガウ!」
彼女は――無言でウードの上着の裾を掴んだ。
「……分かった。後で必ず説明してくれるんじゃろうな」
ウードは頷く。彼女の手を、取る。
「行こう!」
二人で再び走り出す。
ウードは考えた。
森には手が回っているだろう。北――王都には絶対行けない。なら東か西、と言うことになるが、東を選んだのは単なる気まぐれだ。ただ何となく、陽が上る方へ。
東門が見えてくる。
二人、息を切らしながら門を――抜ける。
そこで。
兵士達が遠巻きに壁を作っており、行く手を塞いでいた。




