サイン
――きっとあの馬車の隊に違いない、やはり王様が乗っていたんだ。
ウードは南に向けて走る。
足の速い雨雲だったのか、先程から雨は小降りになっていた。街道をひたすら、ウードは駆ける。
――王様が、どうしてっ。
一体、竜に何の用があるというのだろう。
――ガウは、最後の竜なんだぞ!
それを狩るだなんて、何を考えているんだ。
だが走って馬車に追いつけるはずもない。加えて雨がウードの体温を奪っていく。
だが、ウードは諦めない。
ガウを助けられるのは自分しかいないからだ。
竜の言葉を理解し、人の言葉も話せる自分が、この力で何とか王様を説得しなければ。
――わかって、もらわなくちゃ。
ウードは駆ける。
そうしなくてはガウも――自分も、救えない。
彼自身がよく分かっている。
マルフォントは激しく苛立っていた。
雨で例の兵器の半分が駄目になったと兵士長から報告を受けたからだ。
更に今、道がぬかるんでいたため森の手前で立ち往生していた。
――ええい。何たることだ。
兵器が半分駄目になったのは痛恨だ。だが、話によれば件の竜はずっと人の姿をしていると言うから、そこを襲ってしまえば良いか、と王は考え直す。
問題はこの雨だ。間もなく止むとのことだが、雨でぬかるんだ道に車輪を取られ、すぐに馬車が進まなくなることは容易に想像できた。
――あと一歩なんだぞ。
もうすぐだ。もうすぐ不老不死の銀輪が手に入る、そうなれば、マナ家は安泰だ――。
マルフォントの夢想は、馬車にやって来た兵士の声に破られる。兵士は馬車の横で片膝をつき、小窓からのぞいているマルフォントとは目を合わさずに口を開く。
「申し上げます!」
「――言ってみよ」
兵士には森の中を先行して探索に行かせていた。
「は。情報通り森の中ほどに確かに家はありました。が――」
「いない?」
「家の中に人が住んでいた形跡はあります。ですが、今はもぬけの殻です」
「何だとっ!」
王のあまりの剣幕にたじろいだ兵士は声が震える。
「で、ですが、家の中でこんなものを……」
マルフォントは馬車のドアを僅かに開け、兵士が差し出したものを受け取る。
雨に濡れぬように革袋に入っていたものを取り出し、広げてみる。
――これは。
こちらに微笑みかける少女の絵だった。非常によく描けており、描き手が持つ対象への思いまで感じ取れるようだった。
喉元には、マルフォントが渇望する鱗も描かれていた。
「そ、それが件の竜かと思われます」
ふと、マルフォントは絵の下に書かれていたサインに気付く。
そして、驚きのあまり目を見開いた。
そこには綺麗な字でこう書かれてあった。
『トゥード・フォルトッド』と。




