雨になる――ウードの家
ウードが王都を飛び出した少し後。
カナーティの街では夏だというのに首にスカーフを巻き、黒のローブを纏った少女が大通りを歩いていた。
汗一つかかず、むしろ涼しげですらあるその少女を、すれ違う人々が振り返って顔を確認していく。
――あー、もうっ。
勢い込んで街に来たものの、よく考えてみればこんな都会で一人の人間を偶然見つけられるはずがない。かと言って森の家に戻る気にもなれず、ガウはとにかく歩き回っている。おまけに街の中は人間だらけだ。交わされている言葉が全く聞き取れず、標識や看板の類もさっぱり読めない。
ウードの存在がどれほど貴重か今更ながら認識する。
そうこうしているうちに雨が降ってきた。
ガウはひとまず商店の軒先で雨宿りする。
空を見上げる。しばらく雨は止みそうにない。と、その視線が大きな樹で止まる。
――あ、そう言えば、あいつが……。
『家でもよく絵を描くんだ。カナーティの街並みとか、部屋の窓から見える大きな樹とか』
ウードの言葉を思い出す。
ガウは濡れるのも構わず走り出す。
――あの樹が見える窓のある、家は……。
しばらく辺りを探して、やがてとある家の前に辿り着くガウ。
――家、でかっ。
何とか中をのぞき込もうと門扉から身体を伸ばしてみる。
だが人の気配がしない。竜族は人より知覚に優れているが、その優秀な感覚をもってしても屋敷の中に人の気配は感じられない。
――そんな……。
ここがウードの家なのだとして、では本当にもうウードはいなくなってしまったのか。その場に座り込んでしまう。
本格的に降り出した雨がそんな彼女にも容赦なく降りつける。
実は、あまりに身体が冷えてしまうのは竜族にとって避けなくてはならない事態だ。
竜は血が冷えると、途端に動きが鈍くなる。
――いけない。どこか、雨を避けられる場所は……。
のろのろと立ち上がり門扉にもたれかかる。と、鍵が開いていたのか音もなく開いた。そのまま、朦朧とし出した意識でアプローチを進み、玄関ドアの前まで歩を進める。
ドアノブに手をかけるとこれも――開く。
屋敷の中に入り、きちんとドアを閉め、ガウは玄関に倒れ込んだ。




