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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第一部 世界と戦う前に
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雨になる――王の決断

 次の日、早朝。

 ようやく王都の南門が遠くに見えてきた。

 ウードは肩で大きく息をしている。途中、野宿したがそれ以外は走りっぱなしだった。


 呼吸を整えようとウードは街道脇に座り込む。

 持ってきていた水筒から水を飲む。空を見ると真っ黒に曇っており、ウードがやって来た方向、遠くではもう雨が降り始めていた。

 じきここも雨になる。その前に都に入らないと――そう思ってウードが立ち上がった時。

 目の前に、覆いのかかった巨大な何かを荷車に乗せた多頭立ての馬車が何台も通り過ぎていく。ウードはたまたま街道脇に避けていて無事だったが、あれではいつ誰が()かれてもおかしくない。

 馬車の列が過ぎた後、少し離れて明らかに毛色の違う馬車がウードの前を通っていった。先程までの馬車は実用一辺倒の質素な作りだったが、最後の馬車は客車に豪華な装飾が施されており、引っ張る二頭の馬も他とは毛並みが違っていた。


 ――今のは……?

 小さな頃、父に肩車されて見たパレード。

 その列の中にで今すれ違った馬車を見たような……、とウードは思い出す。

 それは王の即位何十年かの記念式典で、最後にマルフォント王が馬車に乗って登場した――ちょうど、今見たような馬車に乗って。

 ――王様?

 とてつもなく嫌な予感がしてウードは都へ急ぐ。





 この前日。

 森へ確認に行った部下が王都に戻ってきた。

 執務室で部下と向かい合わせに座り、報告を聞くマルフォント。

 それによれば森の中に一軒の古びた家があり、そこには少女が一人で住んでいるようだった。

「で? そのものは確かに――?」

 部下は頷く。



「少女の喉元に、確かに銀鱗が」

「そうか」

 言った切り、王は背凭(せもた)れに深く寄りかかり天井を見上げた。部下を下がらせる。



 気が付くと手を閉じたり開いたり、いつもの動きを繰り返していた。

 ――どうせ、いつかは誰かに見つかって狩られるというのなら。


 マルフォントは考える。

 ――自分が銀鱗(ぎんりん)を利用した方が遥かに人類にとって有益なのではないか? なぜなら、私、マルフォント・マナの善政を長く続けるための(かて)になるのだから。


 (マルフォント)の目の色が少し変わっていた。

 まるで子供のように無邪気に、我が(まま)に輝いていて、それでいて目の奥は――冷えていた。




 決断した後のマルフォントの行動は素早かった。



 部屋の前で常時待機している伝令に、宮殿前の広場に小隊を集めて待機するようにという兵士長への伝言を頼む。



 そうしておいて自身は宮殿の地下倉庫に向かう。途中、すれ違った衛兵たちに次々と声をかける。



 おかげで地下倉庫に付く頃には二十人程度に衛兵が集まっていた。 「良いか、この倉庫から運び出したいものがある。手を貸してくれ」

 衛兵たちと王は倉庫に入る。



 中は広大だった。祭典で使う大掛かりな舞台装置やら膨大(ぼうだい)な量の武器、甲冑の(たぐい)が所狭しと置かれていた。

 そして、それらとは離れた倉庫の最奥部(さいおうぶ)に『それ』は置かれていた。

 一つ一つは馬車の荷車に乗るサイズのものだが、同じものがたくさん安置されている。

「王よ、これは、一体……」

 連れて来られた衛兵の一人がそう声をかける。マルフォントはとにかく全て運び出すように衛兵たちに指示する。


「これらはな、とある兵器だ。今から中央広場まで運んで貰う」

「兵器、でございますか」

 それ以上説明する気は王にはないようだった。衛兵は諦めて運び出し作業を始めた仲間たちに加わる。 

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