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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第一部 世界と戦う前に
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戻らない父

 ウードは夢を見た。

 夢の中で、ウードは父親(リンクス)と魔法の練習をしている。


 集中しろ、と言うリンクス。ウードは少し離れた(まと)に向けて針矢(ニードルアロー)を放とうとしている。


 魔法の起動に必要なのは呪文と魔力、そして――集中力。

 つまり、対象にどれだけ魔法を集められるか。

 集中力は逆に言うと分散力でもある。

 (すなわ)ち、たくさんのターゲットにどれだけ同時に狙いを付けられるか。


 ウードは今、一点に全ての魔力を集中させようとしている。

 なるべくたくさんターゲットに力が集まるように念じ、力が満ちたと思えたタイミングで手を前に出して魔法を――放つ。


 かざした手から呪文によって具現化した針矢が(まと)に向かって飛んでいく。



 ――当たれっ。

 針矢はかろうじて的の端に刺さる。



 ウードは後ろにいたリンクスを振り返って見る。

 リンクスはよくやった、と言ってウードの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 何故かウードにはそのリンクスの顔がよく見えない。

 日光の照り返しなのか、はっきりと――しない。





 ――父さん?

 眠った時のまま、横倒しでウードは目を覚ました。

 あれは子供の頃だっただろうか。魔法の才能がない、とリンクスがウードの育成を諦める前の話だ。


 ああ、考えてみればあれが父さんとの数少ないまともな思い出かも知れない――ガウと母親とのような金色の思い出ではないけど、それでも、リンクス(ちちおや)との大切な記憶には違いない。


 窓から射し込む光が既に昼過ぎであることをウードに教える。そうすると、どうやらほぼ半日、ウードは眠りこけていたようだった。今日はもう、リンクスが帰って来る日だ。



 身体を起こすウード。父親はてっきりもう帰って来ていると思ったのだが、階下からは人の気配を感じなかった。



 ――父さん、遅いな……。

 部屋を出て下に降りる。リビングはひっそりとしている。

 ウードはリビングのソファに腰を下ろす。

 何となく玄関の方に目を向けるウード。今にもリンクスがドアを開け、帰って来るような気がした。






 だがその日、リンクスは帰って来なかった。

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