攻竜兵器
「竜族だと?」
「は。街に出入りの行商人がそのように」
マルフォントは側近の一人からの話を執務室で聞いている。
「どうやら急いでいたらしく、行商人は街の南にある森を通ったようなのです」
「ほう、あの森をか」
――なんとまぁ、生命知らずな。
マルフォントは顎をさする。
「それで?」
「は。行商人は急いでいたためそのまま森を抜けたようですが、途中、確かに喉元に鱗のある少女を見たと」
「それが? 竜族だと言うのか」
確かにマルフォントも耳にしたことがある。
竜族は人の姿にもなれるが、それは不完全でどこかに鱗が現れるのだと。
――果たしてそうだろうか?
果たしてその少女が竜族なのだとして、なぜ森にいるのか、いつから森にいるのか。
総合的な判断として、竜族だと断定するのは、
「現時点では何も分からんな」
とにかく森に誰かをやって確認を、と言うマルフォントにうやうやしく頭を下げると、側近は執務室を出て行った。
――竜族か……。
ほんの数十年前まで、竜はあちこちで確認されていた。
それが人間によって狩り尽くされ、あっという間に絶滅したようだとマルフォントが聞いたのはつい最近のことだ。
それもこれも全ては銀鱗の為だったと言われている。
銀鱗には人の寿命を延ばし、かつ、若返りの効果もあると言われ、竜はこぞって狩られた。
だが、とマルフォントは考える。
それほどの数の竜が狩られ、恐らく大量の銀鱗も採取されたはずだが、若返った人の話も聞かなければ、銀鱗が市場に出回ったという話もない。今も時たま銀鱗だと言って売り出されるものがあるが、その全てが――偽物だ。
だからマルフォントは銀鱗にまつわる伝説を信じていない。
そして、人間が狩れると言っても相手は竜だ。倒し切るにはそれなりの装備が必要になる。
竜を狩る――その目的のためだけに人間が生み出したものは攻竜兵器と呼ばれ、一時期頻繁に見かけた。
ただそれも竜の個体数が減るのに比例して姿を消した。
――確か……。
竜狩りをやったことがある、と父親が言っていたのを彼は思い出す。
マルフォント自身は竜を狩ったことも見たこともない。
右手を握り、しばらく力を込めた後、ゆっくりと開く。
何度かその動作を繰り返す。
――もし。
手に力が入りにくくなり、王は動作を止める。
――森にいる少女が、本当に竜なら?
銀鱗さえあれば力を取り戻せるのか、活力が蘇るのか。
勿論、マルフォントは竜の銀鱗など信じては――。
王は執務室の天井を見上げる。
もし、銀鱗の伝説が。
――本当なら。
いままで使用した全員が銀鱗の効果を秘匿していたら? 市場に出回らないのは狩った人間が残らず消費したからだとしたら?
マルフォントは身震いする。
そんなはずないだろ、と言う冷静な声が頭の中で響く。
だがその声はひどく――聞こえにくかった。




