不穏な影
商人風の男は森を北へ急いでいる。
朝のうちにカナーティの街に入らなければ市のいい場所がなくなってしまう。それなのに寝坊してしまった男は、いつもと違う道を行くことにした。森の中は魔獣がいると言われていて誰も通らないが、迂回することなく街まで行ける。
――どうか、何とも遭遇しませんように……。
荷物を抱え男は必死に走る。
すると突然森が切れ、視界が晴れた。
こんな所があったのか、男は思わず歩みを止め辺りを見回す。
何かの気配を感じて、男は木立に身を隠す。
――何だ? 家……?
男から少し離れた位置に小さな家が見え、若い男女が向かい合って立っていた。
暫く二人で何事かを話した後、少年の方が家から離れていく。
じっと見守る少女。やがて少年は街の方角に消え、見届けた少女も踵を返して家に入っていく。
その、瞬間。
商人の男には、少女の喉元の鱗が――はっきりと見えた。
ウードは自宅に戻ってきた。
四日ぶりだが、家は出た時のまま。
どうやら空き巣などにも入られなかったようだ。ウードはほっと胸をなで下ろす。
二階に上がり、自分の部屋に入る。
窓から差し込んで来る光に埃が舞って、ウードは顔をしかめる。換気のため窓を開けた。
――お父さん、いつ帰って来るんだろ。
ベッドに腰掛けて、そのまま身体を横倒しに倒れ込んだ。
ガウと過ごした四日間の余韻が胸に残っている。
少し距離を縮められたはず、とウードは思っている。
――またすぐ、会いたいな……。
ぼんやりと部屋の壁を眺めているうち、家に帰った安心感もあったのか、ウードは眠ってしまった。




