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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第一部 世界と戦う前に
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不穏な影

 商人風の男は森を北へ急いでいる。

 朝のうちにカナーティの街に入らなければ市のいい場所がなくなってしまう。それなのに寝坊してしまった男は、いつもと違う道を行くことにした。森の中は魔獣がいると言われていて誰も通らないが、迂回することなく街まで行ける。

 ――どうか、何とも遭遇しませんように……。

 荷物を抱え男は必死に走る。

 すると突然(とつぜん)森が切れ、視界が晴れた。

 こんな所があったのか、男は思わず歩みを止め辺りを見回す。

 何かの気配を感じて、男は木立に身を隠す。

 ――何だ? 家……?

 男から少し離れた位置に小さな家が見え、若い男女が向かい合って立っていた。

 暫く二人で何事かを話した後、少年の方が家から離れていく。

 じっと見守る少女。やがて少年は(カナーティ)の方角に消え、見届けた少女も踵を返して家に入っていく。

 その、瞬間。

 商人の男には、少女の喉元の鱗が――はっきりと見えた。





 ウードは自宅に戻ってきた。

 四日ぶりだが、家は出た時のまま。

 どうやら空き巣などにも入られなかったようだ。ウードはほっと胸をなで下ろす。

 二階に上がり、自分の部屋に入る。

 窓から差し込んで来る光に(ほこり)が舞って、ウードは顔をしかめる。換気のため窓を開けた。

 ――お父さん、いつ帰って来るんだろ。

 ベッドに腰掛けて、そのまま身体を横倒しに倒れ込んだ。

 ガウと過ごした四日間の余韻が胸に残っている。

 少し距離を縮められたはず、とウードは思っている。

 ――またすぐ、会いたいな……。

 ぼんやりと部屋の壁を眺めているうち、家に帰った安心感もあったのか、ウードは眠ってしまった。

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