三日目・昼
昼になって。
ウードが剣の稽古をするというのでガウも付き合う。
家の前の広場で、ウードが剣を振るう。基本の型でもあるのか、剣を上段に振りかぶって真っ直ぐに振り下ろす。その動作をひたすら繰り返すウード。ガウは切り株に腰を下ろしてぼんやりとそれを眺める。
――うーん。
しばらく見ていて、ウードに剣の才能が無いことに気づいてしまうガウ。腰は引けているし、振り下ろされる剣の軌道もぶれている。
それでも彼は一生懸命だ。前を向いて顎を引き、剣をひたすらに。
「――ちょっと貸してみよ」
ガウはウードに近づき、彼から剣を借りる。
「ガ、ガウ?」
肩で息をして、ウードはその場にへたり込んだ。
――久しぶりだなぁ。
何回か素振りをしたあと辺りを見回すと、一本、背の低い木が生えているのを見つける。
ガウはその木に近付いて、剣を構える。
いつもの黒いローブを着ているためいささか動きづらいが、問題ない範囲だとガウは判断する。
「まあ見ておれ」
ガウは、目を閉じて今までの集中を切り、すぐに目を開いて別の集中力につなぎ替える。
ふっ、と短く息を吹き、呼吸を戻す素早さのまま剣をまっすぐ振り上げる。
「はっ!」
ガウがかけ声とともに袈裟に振り下ろすと、木は斜めに切り裂かれ、音もなく地に落ちた。
「す、凄い!」
後ろで見守っていたウードが驚きの表情を浮かべながら手をたたく。ガウは、にかっとしてそれに答えた。
昔、母と共にオーガの街に逗留したことがある。
一年くらいだったが、ガウと母親は人型になって街で暮らした。
その折、逗留先の屋敷の主人から剣の手ほどきを受けた。
ガウは――オーガから聞いた受け売りをウードに話す。
「良いか? 剣を振る時、恐れてはいかん。また、躊躇ってもいかん。一息で、ためらいなく、そして、真っ直ぐに――それが剣術の基本なのじゃ」
「う、うん」
ウードはガウから剣を受け取り、さっきガウが短くした木の前に立つ。
「やってみるね」
ガウは頷いて、後ろに下がる。
真っ直ぐに振り上げるウード。
――お。
先程よりはましだな、とガウは思う。
「やっ!」
さっきより短くなった木に向かって真っ直ぐ振り下ろされたウードの剣は、しかし幹に刃を取られ途中で止まってしまう。
「うーん、難しいなぁ」
そう言って剣を抜こうとするが、幹に食い込んでしまっていて、抜けない。
「あ、あれ?」
「――貸してみい」
ガウが柄に手をかけ、力を込めて手前に引く。すると、剣は何ごとも無かったようにするりと抜ける。
「逆らってはいかん。剣が折れるかもなどと思ってもいかんぞ」
「あ、ありがとう」
ウードは剣を鞘にしまう。
「ガウって、凄いなぁ」
今日はもう終わりにするらしく、ウードは切り株に腰を下ろす。ガウもその隣へ。
「どこで剣術を?」
ウードの質問に、オーガの街でのことを話すガウ。
「そうなんだ。でも、ガウって実は剣術の加護持ちだったりして」
「あー、どうじゃろ。調べたこと、ないからの」
「さっきのガウ――凄くかっこよかった」
そ、そうか、とガウは照れる。
「お前は、剣術、嫌いじゃろ」
笑って頷くウード。
「うん。向いてない。休み明けに試験があるから、仕方なく」
ふふ、とガウは微笑む。
「じゃあ、何かあったら私が守ってやろう」
「――ああ、うん。お願いするね」
――変な奴だなぁ……。
ガウは改めて呆れる。普通、女にそんなことを言われたらプライドが傷つく男もたくさんいるのだが。
――まあそこが……。
と、隣にいる少年の顔をちらりと見て、少し顔を赤くする。
「ん? どうかした?」
「――何でもない」
さあ戻ろう、と言ってガウはウードの手を引いて立ち上がり、家に向かって歩き出した。




