絶対君主
夜の執務室でマルフォント王は一人、燭台の明かりに眼を細めている。魔法光の明かりが眼に痛い気がして、最近はもっぱら燭台を使っている。
王は小さく息を吐くと、ノートに何事かを書き込んでいく。こうやって考えをまとめるのがマルフォントの日課だった。
――来期から始める予定の王都移住の段取りについて……。
他種族の家族を王都に住まわせる。
そのためには区画をいくつか彼らのために整理しなくてはならない。はっきり言って面倒で費用もかかるが、見合うメリットはあるとマルフォントは考えている。
――彼らは何を考えているか分からないからな。
即位したばかりの頃はまだ良かった。マルフォントは自信に満ちていたし、他の種族の代表ともうまくやっていた。
何より、自分の父親の代まではそれで問題なかった。
だが、それがマナ家伝来の『絶対君主』と言う加護のおかげだとマルフォントが知ったのは、父王が亡くなる、その寸前だった。
父親はマルフォントにマナ家に代々伝わる加護の話をしてくれた。そして、多分お前に受け継がれる筈だと。
なるほど、その力があれば自分も父のように――マルフォントは父親の死後、自分に加護が降りてくるのをひたすら待った。
しかし、マルフォントに加護はもたらされなかった。
代々、数百年に渡って受け継がれてきた『絶対君主』の加護は突然マナ家から消えてしまった。
当然彼は気落ちし、同時に責任も感じた。自分の代で加護が失われてしまって申し訳ないと。
だから、尚のことマルフォントは名君にならねばならなかった。
加護などなくとも、私ならこの国をさらに発展させられる――いや、そうしなくては駄目なのだと。
とは言え、加護のないことは想像以上に負担だった。それは、特に他種族との交渉において顕著だった。
彼らは加護の力でゼルスタン王国に加盟したのであり、その意味ではマルフォントに従う理由はないのだ。
案の定彼らはマルフォントが老いるにつれて徐々に統率が取れなくなり、ゼルスタン王国からの離脱を目論んで動き出した種族もあるようだった。
――頼んだぞ、リンクス。
あるていど他種族の言語に通じたエルフを同行者につけ、リンクスには各種族の調査に行ってもらっている。
言語魔法の使い手であるリンクスは、エルフ語、オーガ語をそこそこ操れる。
不穏な動きをしている種族があれば、何としても潰さねばならない。
自分の生きているうちに何とか彼らを押さえ込み、次代に渡さなくてはならない。もう――加護はないのだから。
――時間が、足りない。
老いが、凄まじい速度でマルフォントに迫ってくる。
どこまで逃げられるのだろう、彼は思わず身震いした。




