帰郷
今回の幕間は二話だけです。
このエピソードだけどうしても第五部に入りませんでした。
セラーの異空間から出た二人は、目の前の城壁に見覚えがあり、それがカナーティのものである事に気付く。
「私とガウさんは森で待ちます。結果がどうであれ、必ず明日までには連絡を」
セラーはそう言い置いて、入らずの森の方角へ歩き去って行った。
「森にガウもいるんだよね?」
「ああ、森の中に家があって、そこで待つそうだ」
「そっか」
――流石にカナーティに入るのは危ないってことかな。
竜のことを知る王国兵士が見咎めないとも限らない。
「俺達も行こうか、ティアナ」
父娘はセラーを見送った後、カナーティの門をくぐり懐かしき故郷の地を踏んだ。
時間は昼過ぎ。
さっきまでオーガの街であるカザイアにいた二人としては、理由が分かっていてもやはり奇妙なものだと思う。
竜に化ったガウに乗るセラーの異空間に入って運ばれ、こんな短時間で街に戻ってこられるなど。
「いいか、ティアナ」
「うん?」
「母さんには自分で説明しろよ」
分かってるよ、ティアナは不服そうな声をマルドゥムに投げる。分かっているならいい、とマルドゥムは真顔で返す。
やがて慣れ親しんだ街路を抜け、二人は自宅の前に出る。
屋敷の扉、恐る恐るマルドゥムがノックすると、暫く待たされた後、妻のミリアが扉の向こうから顔を出した。
「あら――?」
肩まである赤い髪を小さく揺らし、ミリアは首を傾げるような動作をする。
戸惑った時の動きだ――マルドゥムは笑って、ゆっくりと彼女に近づいた。
「ただいま、ミリア」
「お母さん、ただいま」
マルドゥムの後ろからティアナも声をかけた。
「お帰りなさいマルドゥム、ティアナ」
ミリアはゆったりとした動作で二人を抱き寄せ、少し泣いた。それほど背の高くない彼女に合わせ、ティアナとマルドゥムは屈んでミリアにハグを返す。
「遅くなって済まなかった」
「いえ、いいのよ。あら? 何だかあなた達、逞しくなったわね」
「そうか?」
「ええ、ティアナもね。それで――」
リンクスさんとは会えたの? ――ミリアの質問に、二人はうっすらと笑い、曖昧に応答した。
「旅を続けるですって?」
その日の夕食時。
久し振りの家の食事を堪能した後、食後のお茶が出たタイミングでティアナはミリアにおずおずと切り出した。
「あのね、お母さん」
ティアナはミリアに訳を語る。
ウードとガウのことやドワーフ、オーガのこと、自分達の目指すもの。
話を聞き終わったミリア、目をしばたいてゆっくりと天井を仰いだ。
「リンクスさんを探しに行ったのよね?」
そうだよ、とマルドゥムは頷く。
「じゃあどうして? 何でそんなことに」
唇をきゅっと噛んで、母親は娘の顔を見た。
「お母さんは、あたしがトゥードのことを……その……」
「好きだってこと? ええ、知っているわよ」
勿論ね――ミリアは笑う。
――俺は知らなかったぞ。
マルドゥムは妻を見るが、彼女は知らんぷり。
「彼を助けたいの。少なくとも、あの状態の彼を放ってはおけない」
真っ直ぐに言葉を発する。
母親は、娘の視線の深刻さにたじろぐ。
トゥード君のことを好きだと言うことは知っていたが、これほどに深い思いだなんて、と。
「トゥード君の今の状況には同情します。でもだからって、あなた達をそんな危ない所へは行かせられません」
ぴしゃり、と母親らしい口調で、ミリア。
自分が言っているのが我儘だという自覚はある。
ティアナは押し黙り、俯く。
「帰って来られないかもしれないんでしょ? 絶対、駄目」
それはそうだろうな、とマルドゥムは自分の妻の母親としての一面に感嘆する。
「だいたい、貴女がお父さんから剣の手解きを受けたと言ったって、自分の身も自分で守れないでしょう? 足手まといになるだけじゃないの?」
その言葉を聞いて。
ティアナがぱっと顔を上げる。
「あたしが、あたしが強ければいいのっ?」
――おいおい、ティアナ?
隣で黙って話を聞いていたマルドゥムは動揺する。
「ええいいわよ、ティアナ。あなたがもし、父さんより強ければ――旅の続きを認めて上げる。ね? マルドゥム」
ミリアはにこやかに夫に微笑みかける。
――それ、要するに何が何でも勝て、ってことだよな。
「分かった! あたしが勝てばいいのね」
途端にきらきらした瞳でミリアに頷く娘。
「よし。お父さん、勝負しよう!」
ティアナ、弾んだ声で父に挑む。




