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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第四部 南方騒擾
159/250

哄笑

第四部、最終回です。

 その姿に身構える一同。




 「おお――」

 瀕死であったマルフォントが全快していることに感動を覚え、テトだけはドワーフの娘に感謝する。



 「サルク、後で話の続きをしようぞ」

 「ええ、分かりました」

 サルクは神妙な顔で頷きを返す。




 「それよりも――今はこちらが先決じゃ」

 ウードに向き直るマルフォント・マナ。

 王と、その側に駆け寄るテト――ウードとガウ達は彼らに向かい合って立つ。


 「さっき、何と申した? 国を、作るじゃと?」

 「ええ、僕達は――」




 「ねえ? 王様(おじさん)

 ウードの言葉を制して王の前、緑の髪を(ゆる)く束ね、首にスカーフを巻きつけた少女が進み出る。


 ウード達はそのまま後ろに下がり、ガウの後方に移動する。

 テトは王の後ろへ。



 先程カザイアに戻った際、セラーから装備を受け取った少女は、上半身にはいつもの部分鎧(プレートメール)、その上から羽織った白いマントをはためかせ――手には。




 「あなたが私たちを止めることなんて、出来ないわよ?」

 携えた黒い刀をゆっくりと引き抜く。




 「どうしても止めたければ――私に勝つことね」

 ずらりと上段に構える竜の少女。背中から見ているサンタクララやリンクスは、尋常ならざる気迫がその身から漏れているのを感じる。




 「ほお? 面白い」

 マルフォントは側近の兵士から剣を借りる。それは何の変哲もない、ありふれた軍からの支給品。




 王は剣を装備し、腰だめになって(つか)に手を掛けた。



 ――あれは、居合いか?

 長らく王国の近衛(このえ)として働いたマルドゥムでさえ見たことのない、王の戦い。




 「良かろう。相手になってやる」マルフォントは薄く笑い、目には緑の、光。

 ――な?



 思わずガウ、たじろぐ。

 ――これは、想像以上ね……。




 柄を握り直す。

 王の(たたず)まい、所作(しょさ)――かなり『出来る』ことは、ガウには分かっていた。だからこそ、初めから黒刀を抜いたのだ。




 ――そうでなきゃウードの腕を。

 あんなに綺麗には落とせない――だが。




 「どうした? とっととかかって来ぬか」

 迎撃体勢の王は余裕の表情(かお)



 ――駄目。どこに打ち込んでも、斬られる。

 ガウのこめかみから汗が一筋(ひとすじ)垂れる。




 時刻は間もなく夕暮れ。

 周囲(あたり)はじんわりと暗くなっていく。

 マルフォントのぎらぎらと光る緑の眼が、一同を威圧する。





 ――おいおい、加護持ちなのか。

 軽い驚きを覚えるサンタクララ。




 ――居合いの加護なんて初めて見る。

 一同はガウの背後に控えており、サンタクララは最後尾に近い位置にいた。




 ――居合い(それ)が『完全なる加護(フルムーン)』だったらヤバいぞ、(あね)さん。




 万一ガウが敗れた場合のことをサンタクララは考える。

 ――何とか、カザイアまで撤収出来れば。




 サンタクララが何となくカザイアの方向に振り返ると、背後で泣きそうな顔になっている少年(ウード)と目が合った。




 「大丈夫、姉さんは負けない」

 「え、ええ……」

 サンタクララはウードの肩に手を置こうとして、遠く遠くカザイアの街、その外壁の上に人影を見た。ウード達が潰した砲台の辺り。



 ――何だ……?

 強烈に湧き上がる嫌な予感。



 だが、確認する前に。

 きらりと何かが閃いた。




 ――矢?

 こんな超長距離で届くわけ――だが、それは凄まじい速度でサンタクララ達めがけ飛んでくる。

 その、軌道は。



 「危ない!」

 サンタクララは思わず()(かば)うように前へ――矢の軌道上に――出る。



 だが、(それ)はサンタクララの胸を軽々とぶち抜き、そのまま背後の人物、その心臓に真っ直ぐ突き立てられた。

 ――馬鹿な。









 ――?

 その人物は自分の心臓に深く刺さった矢を見つめ、信じられないと言った表情で仰向けにゆっくりと倒れていく。




 ――何て、ことだ。こんな……。

 サンタクララは血の噴き出す胸を押さえ、前のめりに倒れる。

 その時、遠くカザイアの外壁に立ち、哄笑(こうしょう)を上げる(エルフ)の姿を見た気がした。







 対峙する王と竜の少女。

 ――!

 少女を不意に襲うただならぬ気配。


 ガウ、振り返る。





 ――ああ、そんな!






 「どこへ行く、勝負の最中(さなか)ぞ!」

 王の怒声が飛ぶ。





 意に介さぬガウ、黒刀を投げ出し走る。













 「ウードーッ!」



 千切れるような叫びを、その身から発して。

これで第四部終了です。

次回は例によって未定です。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!


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