リンクス
某所。
月明かりの美しい夜。
焚き火の火を前に、リンクスは震えていた。季節は夏――決して寒いからではない。
同僚のエルフが川へ水を汲みに行っている間、リンクスはふと思い出して探索蝶の映像を確認することにした。
映像の受信にも同じく魔力紙を使う。
リンクスは地面に広げた魔力紙に手を当て、探索蝶の魔力と接続する。実はかなりコツのいる作業だが、リンクスはいとも容易く成功させる。
瞬時に蝶の視界が紙に映し出された。
蝶はどこかの室内を見ていた。自宅ではない。
――どこだ、ここは。
蝶は、どうやら部屋には入り損ねたらしく窓から室内をのぞいている。
奥の部屋で息子が椅子に座り、眠っているらしいのが確認できた。
――あいつ、こんなところで……。
最近、行き先も告げずによく家を空けていたのはここに来るためだったのかとリンクスは軽い怒りを覚える。
――この娘は……?
手前の部屋、蝶に近いところ、少女がベッドで眠っていた。歳は息子と同じくらいだろうか、若そうに見えた。
――二人で、何を……。
画面の中で少女が寝返りを打つ。
その時、首の辺りで何かが月の光に照らされた。
最初はその首にかかるペンダントかもと思ったが……。
――い、今のは……、ひょっとして……。
一つの可能性にリンクスは気付く。彼の目が一杯に見開かれる。途端に、震えが止まらなくなる。
――何てことだ。
意を決して、リンクスがよく確かめてみようとしたその時。
背後の茂みが鳴って、エルフの同僚が戻って来た。リンクスは慌てて蝶との接続を打ち切り、魔力紙を懐にしまう。
『どうしたんですかリンクス、顔が青いですよ?』
エルフ語だ。
『いや、問題ない。普通の状態だ』
リンクスも――エルフ語で返した。
「ああ、そこはもっと砕けた言い回しがありますよ」
と、これはゼルスタン王国の共通語。
「む。そうか?」
「ええ、そうです。そこは『大丈夫だ』がいいですよ」
彼女はリンクスの隣に座ると、コップに水を入れて差し出す。
「なるほど、今のが『大丈夫だ』か……」
コップを受け取り、リンクスは覚えたての単語を反芻する。
それを聞いた同僚はにっこりと頷く。
「良い発音です、さすがリンクスさん。発音は言語魔法の補助ありとは言え、早い上達ですね」
水を飲み、リンクスも笑う。言語魔法とは発音、聞き取りをほんの少しだけ補助してくれる魔法のことだ。
「まあこのくらいは、な」
そう言いながら、頭の中ではさっき見た映像が頭から離れなかった。
気を抜くとまた身体が震えてくるのを、必死に押しとどめている。
あの瞬間、少女の喉元で閃いたもの――。
――あれは鱗だった。それも……。
銀色の。
それが銀鱗と呼ばれるものであり、竜族固有のものであることを、リンクスは知っていた。




