蝶
街の南門近く。
門は外敵の進入を防ぐため、夜は基本、閉じられる。ただ、門番のために通用門があって緊急の場合であればそちらから出入りできる。ウードは門番のおじさんに頼み込み、何とか出してもらう。
「悪いが朝まで戻らないでくれ。見つかると面倒になるんだ」
ウードは了解する。
夜の森は昼間とは違っていた。
空に掛かる二つの月がウードを照らす。
月明かりがあることで僅かながら恐怖心が和らぐ。
ただ、それでも不気味であることに違いはない。
何だかよく分からない獣の遠吠えに肩をすくめたり、自分が踏んでしまった枯れ枝の音に怯えたりしつつ、ウードは森を進んでいく。
今が夏で良かったと思う。
これで寒かったりしたら心が保たない。
その時。
ふっ、と視界の端を過ったものがあった。
真っ暗闇なのに、それはやけにはっきりと見えた。
ひらひらと舞う、それは――白い、蝶だった。
ガウの家の前。
一応ドアをノックするが、返答はない。
ウードは裏に回る。
裏側はほぼ森の中に入っていて、枝葉で隠れていて分かりにくいが、かがんでぎりぎり通れるくらいの小さな入口がある。
入口は引き戸になっている。
慎重にドアを滑らせるウード。
なるべく音を立てないように、家の中に入る。
――あ、そうだった。
引き戸を閉める。
立ち上がって、前を向くと。
ベッドで横たわるガウがそこにいた。
そうだった。ベッドルームに出るんだった。ウードは訳もなく疚しい気持ちになる。
ベッドサイドに立ち尽くすウード。
ガウは、薄いシーツに胸元まで入り、静かに眠っている。
その顔を、半分開いたカーテンから差し込む月明かりが幻想的に照らしていた。
――可愛いな……。
思わず触れたくなる衝動を抑えて、ゆっくりとベッドから離れるウード。
部屋と部屋はドアなどで仕切られておらず、ウードはそのままリビングに入って、自分がいつも座る椅子に腰を下ろす。
背負っていたリュックをテーブルに置く。
静かだった。
森の中はあんなにざわざわとしていたのにここは驚くほど静寂で満たされている。
少し離れたところからガウの眠るベッドを眺める。
何だか、何年も会っていなかった気さえした。
正直、何故これほどまでに彼女に惹かれるのかウードにもうまく説明出来ない――何故か出会った時から、ウードの胸は高鳴り続けている。
ウードはただ、ただガウを見つめた。
そうしているうちに眠気に襲われ、ウードは眼を閉じた。




