あなたを喪えない
「あなたは! どうやってここまで!」
部屋の中には街の行政官――アミナが居た。
アミナはサンタクララを睨んで牽制しつつ、耳の辺りに触れ、ピアスのような物を押し込む動作をした。
ベッドに横たわっているのはレンカ――と、その隣のベッドに見知らぬ老女。アミナは並べられたベッドの真ん中、小さな椅子に座り、首だけを入口に立つサンタクララに向けていた。
光に包まれているレンカ。光は時々、弱くなったり、元の明るさに戻ったりしながらレンカを取り巻いている。
その光が一本、太い線になって隣の老女につながっていた。
老女はまるで、その太いパイプから力――生命力――を、吸い上げているようだった。
――魔力を直に供給している?
見れば老女は齢幾つなのか、百や二百ではないようにサンタクララには見える。
――人の身が、これほど生きられるのか?
いや、生かされているのか、サンタクララには判断がつかなかった。
――とにかくだ。
「彼女を返してもらおうか」
サンタクララはずかずかとレンカに近づき、彼女を抱きあげるべく手を伸ばす。
が。
何かが邪魔をして、サンタクララの両腕はレンカに届かない。
――障壁か。
それなら障壁破りの魔法具で……。
サンタクララがバックパックに手を伸ばしたその時。
目覚めたレンカが半身を起こし、サンタクララと目を合わせた。
「あ。迎え、来てくれたんだ」
無邪気に笑うレンカ。
だが、表情とは裏腹に、彼女は泣いていた。
「――大丈夫か?」
「ん? あれ? あたし……、何で泣いてるんだろ」
顔を擦るレンカ。
だが、涙はどんどん溢れてくる。
急速に辺りが減光していく。
「ああ! 光が、消えてしまう! どうしてっ」
ひどく狼狽するアミナ。
隣の老女との光接続が切られ――老女も、目を覚ます。
「アミナ」
一時で、老女は全てを理解したようだ。
「はい」
椅子から飛び降り、跪くアミナ。
「あなたは、まだこんなことを」
老女の声は小さかったが、芯の通った、不思議とよく通る声だ。
レンカ、サンタクララは彼女達のやり取りを黙って聞いている。
「も、申し訳ありません。あなたを喪うことがどうしても――出来ません」
アミナは目を伏せ膝の上に置いた自分の手を見つめ、たどたどしく答える。まるで、母と娘のようだとレンカは思う。
さながら娘に言い聞かせるように、老女。
「アミナ、ありがとう。だけど、もういいのです。人は限りある生命を精一杯生きる種族なのよ。だからこそ尊いと、あなたにも分かって、いるでしょう? 私はもう、十二分に生きましたよ」
老女はそこで、隣のレンカをちらりと見た。
「アミナ。これからはあなたが、みんなが私の分まで生きるの。もとより、生命はそうやって――繋いでいくもの……」
老女のアミナを諭す声、低く鳴って。
「――行こうか。レンカ、立てるか?」
サンタクララ、少女の手を取りベッドから降ろす。
「うん、大丈夫」
「お嬢さん、ありがとうね。どうか、アミナを責めないであげてね」
老女の身体にはもう生命力が残っていないようにサンタクララには見えた。
――レンカが無理やり長らえさせてたってことか。
そのレンカは、老女の状態を一目で理解したのかにっこりとしてその手に触れた。
――まるで、患者を安心させるようだな。
「うんいいよ、あのね」
目を閉じ、レンカ、集中。
ぴぃぃぃん。
冷たい音がレンカの触れた指から発せられた。
鋭く青白く、優しい輝きが大量に老女の身体に流れ込み、やがて――消えた。
老女は気持ちよさそうにベッドの上で目を細める。
「ああ、とても、楽になったわ……」
「でしょ? あたしね、何だかとても長い夢を見ていた気がするの。で、起きたら……」
涙の乾き切らぬ瞳で、レンカはアミナを見る。あなたが何かしたんでしょ? と目で問うように。
「どんどん力が湧いてくるの。今なら、どんな怪我でも治せる気がするわ」
「そう、良かったわね……」
老女は徐々に反応が鈍くなり、やがて眠った。
「――行こう」
「うん」
「待ちなさい!」
アミナは出て行こうとする二人を遮り、入口に立ちはだかる。




