祈りの塔――侵入
サンタクララは壁面を上っていく。
――これ、腕の力は自前なんだよね。
と言いながら、息一つ乱さずサンタクララは進む。
しばらく後、壁の状態が大体わかったサンタクララはスピードを上げ、まるで走るような速度でみるみる上っていく。
――三階だよな。
正面から目測した三階の高さよりかなり上まで上ったと感じたところで、サンタクララは足を使うのをやめてだらんとぶら下がる。
『揚々たる登攀者』のおかげで彼が落ちる気配はない。
そのまま、じわじわと円筒形の塔を平行に進んでいく。
半周ほどしたところで、ワンフロア上のバルコニーに辿り着くサンタクララ。思った通り、ここに見張りはいない。
――まあ、上からは来ないよな普通。
手袋を外しバックパックに戻す。
バルコニーから労せず塔内に侵入するサンタクララ。
塔の中はひっそりと静まり返っている。
――祈りの塔はどこも大体こんな感じなんだな。
試しに、レーダー代わりに魔力探知のメダルを取り出してみる。『血染めの掌』ほどではないが、膨大な量の魔力が確かにサンタクララの足元に、ある。
息を呑むサンタクララ。
――これがあのお嬢ちゃんなのか? だとしたら……。
レンカは十歳かそこらだろう。
それなのにメダルに表示されている魔力量は、大神官、いや、これはもう。
――もうちょっとした神様だろ、これ。
人間がこれほどの魔力容量を持てるのか?
メダルをポケットに戻し、階段を見つけ、サンタクララは三階へ降りる。
どの部屋なのかは一目で分かった。
もれ出づる青白い光が廊下までも照らし、そこだけ昼のような明るさだ。
サンタクララは反対側の突き当たりから、眼だけだして廊下の様子を確認する。
――二人か。
扉の前の見張り。
サンタクララは懐から投げナイフを二本取り出す。刃だけの投擲武器で、殺傷力は低いが即効性の麻痺毒が塗られている。
――頼むから静かに倒れろよ。
投げナイフを両手に持ち、速いステップでサンタクララは廊下に全身を出した。
一挙動で二本のナイフを完投し、再び突き当たりの暗がりに身を隠す――まさに、目にも止まらぬ一瞬の出来事だった。
「う」
「ぐ」
どさ、どさ。
倒れた見張り。音は静かだった。
――いい子いい子。
死ぬことはないが、暫くは手の小指一本動かせないだろう。
サンタクララは再び廊下に出ると、扉の前まで近づく。
――鍵は、と。
痙攣して苦しそうな見張りの身体をまさぐって鍵を見つける。
熟練の技術で無音のまま鍵を開けると、扉に指を近づける――サンタクララはこんな時、最初はいつも右手の人差し指だけを対象に触れさせる。
とん。
眼を閉じ、扉の向こうの気配を人差し指に吸い上げる。
――危険はなし。多分、罠もなし。
接触を掌に切り替えて、ゆっくりと扉を押す。
室内の青白い光が廊下に溢れ出し、サンタクララは思わず目を細めた。




