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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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クライマーズ・クラウドナイン

 「そもそも、何であの子がさらわれるんだよ」

 「分からないんです。ただ、精霊によれば、レンカの潜在能力は相当高いらしいですけど」


 家を出て、三人はレンカが幽閉された塔へ向かっている。街の中では時間が分かりづらいが、まだ夜ではないようだ。


 と言うより、むしろ。

 ――少し、明るくなっている?


 気の所為(せい)かも知れないが、ウードには外の光がたくさん射し込んでいる気がした。


 「まあここはそもそも医者(くすし)の街だからな。魔力容量の高さには無限の利用価値があるんだろう」


 「――そろそろよ」

 ガウが黒刀から(さや)を払った。


 「おいおい。(あね)さん、物騒だな」

 サンタクララが彼女の武器の威容(いよう)に驚く。


 「全員、叩きのめしてやるんだから」

 あと一つ曲がれば例の塔の正面に出ると言うところだった。


 「まあ待て待て」

 サンタクララは両肩を掴んでガウを押しとどめる。


 「何? ここまで来たら正面から行ってあいつら全員――」


 「だから待てって」

 ガウの眼を覗き込む。そのサンタクララの、何とも言えずわくわくした表情が子供のようで、ウードは思わず見つめてしまう。


 「どうだい。ここは一つ俺に任せてみる、ってのは」






 夜になったようだ。

 やはり、気の所為(せい)ではなく、外光の射し込む量が増えている。すっかり薄暗くなってしまった一角で、ウードとガウは身を潜めていた。

 サンタクララは暗くなったのを見計らって、先程塔に向かったようだ。


 任せたことを後悔しているのか、ガウはサンタクララが居なくなってから苛々(いらいら)した表情を隠そうともしない。

 「あいつ、うまくやれるのかしら……」

 ウードは少し離れた場所にそびえ立つ塔を見上げた。

 レンカを飲み込んだまま返そうとしない塔は、不気味に(たたず)んでいる。








 西方(せいほう)ではちょっとした有名人だったが、こんなところにまでは盗賊サンタクララ・エリア・レマイクの名前は轟いてはいない。都合がいい反面、少し寂しくもある。


 塔の裏側に見張りはおらず、閑散としていた。

 無理もない。裏側には開口部は一つもなく、ひたすら壁が上空まで続いているだけだからだ。こちら側からどうしようとも内部に侵入することは不可能――に、見える。



 ――さてと。

 サンタクララはバックパックから黄色と緑、(まだら)模様の手袋を取り出して両手にはめた。



 奇妙な手袋だった。指が六本ある。サンタクララは外側――小指側――の指を余らせ、内側の五本に自分の指をはめる。


 これは揚々たる登攀者クライマーズ・クラウドナインと呼ばれる魔法具(マジックアイテム)だ。




 ひた。





 サンタクララ、頭の上辺りで塔の壁面に右手を押し当てる。





 ひた。







 更に身体の近くで左掌(ひだりてのひら)

 と。

 右腕の筋肉を瞬間的に怒張(どちょう)させ、サンタクララは壁面を塔を倒さんばかりの力で押さえつける。



 押さえつけたことによって手袋は弱い光を放ち始め、壁面と掌の間を真空にして、圧倒的な保持力を生み出していく。



 よく見ると余らせた六本目の指は、まるで中身が入っているかのように自然に動いている――この指は装着者が自在に操ることができ、クライミング中、より精密な姿勢制御を可能にするためのものだ。



 ――毎度この感覚が気持ち悪いんだよなぁ。

 真空になった右腕の位置まで身体を引き付ける。

 次は左腕、同じように真空状態にして、身体を引っ張り上げる。

 身体を強く蹴る為に、足も壁面につける。




 ――さあ行こう。

 ゆっくりと一連の動作を繰り返し、サンタクララは塔の壁面を上がって行く。



 『揚々たる登攀者』は取り込んだ魔力で壁面に吸い付き、どんな切り立った壁でも踏破する――そんなアイテムだった。

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