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決意

 マークの後に続いて町の大通りを歩いていく。

 左右には木やレンガで造られた大きな建物が並び、通り沿いには等間隔で木の柱が立っている。


「マーク、この柱は何なの?」


「ん?あぁ。これは魔法灯って言うんだよ。夜の六時になると先端が光るんだ。それで、朝の五時になると消える。」


 ん?今、魔法って言った?魔法って御伽噺に出てくるあの...


「魔法灯って魔法で光るの?」


「あぁ。そうだ。」


「天界には魔法があるのか!」


「うーん。まぁ、ここには魔法があるとだけ言っておこう。細かい話は目的の場所に着いてからだ。」


 マークは少し含みのあるセリフを言いながら先を歩いていった。


 それにしても、見た事の無い建物に、魔法。

 さすがはモンテ様が住まわれる場所だ。


 初めて見る景色と魔法が使えるという言葉を受けて、先程まで持っていた暗い感情は期待と好奇心に押し出されていった。


「さぁ、着いたぞ。」


 ふと、マークは足を止めて、通りの左にあるとても大きな建物の方を向く。


「わぁぁ。」


 こんなに大きな建物、ネクト村には無かったなぁ。


「ここは冒険者ギルドって言うんだ。それで、俺はここの一番偉い人をやってる。まぁ、中へ入ってくれ。」


 マークは木の引き戸を開けて、建物の中へと入っていった。

 私も続いて中へ入ろうとした時、何かが臭った。


 酸っぱくて、少し不快な臭い。


「マーク、ここちょっと臭くないか?」


「ん?あぁ...今日はちょっと特別なんだ。」


 マークは少し困った顔をしながら言った。




 入口から中へ入ると、木の板を張り巡らされた、大きな広間が広がっていた。

 部屋の端には何箇所か木の台座が設けられており、その横にある茶色い板には文字の書かれた紙が大量に貼られている。

 広間の奥にはハシゴを斜めにしたような形の木の板が取り付けられていた。


「ねぇ、あのハシゴみたいなのは何て言うの?」


「あぁ、あれは階段だ。あれを登って二階へ行くんだ。」


「?ニカイって何?」


「...おいおい、マジかよ...」


 あれ?何でマークは頭を抱えているんだろう。

 だってわからない物はわからないもん。


「...あー、そうだな...この建物には二階って言うのがあってな。んまぁ簡単に言えばこの天井の裏にも部屋があるんだ。そんで、上に登っていく毎に三階、四階と数字が増えていく。」


「すごい!すごいよ!マーク!天井の上に部屋を作っても壊れないなんて、何て頑丈な建物なんだ!さすがは天界の建物だ...私達の想像を遥かに超えている...」


「いや、作ったのは人なんだがな。」


「うん?何か言った?」


「いや、別に...」


 今、何かマークが呟いていたような。

 まぁ、いいや。

 それにしても見た目だけで無く、中身も素晴らしだなんて...

 本当に、本当に天界に来れて良かった...


「ちなみに、この建物には地下もあるんだぜ。」


「ツィカ!...とは?」


「そこに下へと降りる階段が見えるだろう?地下ってのは地面を掘って利用出来るようにした空間の事だ。だから、この建物は地面の下にも部屋があるって事...ん?シャキラ...おーい...」


 地面...ツィカ...部屋?...

 驚きの連続に、私の理解が間に合わない。


 それからはマークの後をついて行ったのだろう。

 気が付いたら、私はとある部屋の机を挟んで、マークと向かい合って座っていた。


「それじゃあ話をしようか。...シャキラ、大丈夫か?」


「...ええ...大丈夫...」


 半ば呆然としながらも何とか返事をする。


「まずはこの町についてなんだが、ここはグランハイト王国のマクファデン伯爵領南西部にある、パレッタという名の宿場町だ。聞いた事はあるか?」


「えと...無い...です。」


「だろうな。ちなみに、俺もネクト村という場所は初めて聞いた。」


「嘘だ!そんなはずは...」


 そんなはずは無い。

 だって私はマコラの洞窟を抜けてこの地へ来たんだ。

 ネクト村からマコラの洞窟までは結構な距離があるけれど、それでも一番近い集落はネクト村のはずだ。

 知らない訳が無い。


「残念ながら本当だ。門番にもどこから来たか聞かれただろう?あいつらも知らないって言ったんじゃないか?」


「あぁ、そうだ。...そうだが...」


 駄目だ。訳が分からない。

 ここの人がネクト村を知らないのであれば、ここは...

 そもそもここは天界なのか?

 冷静に考えてみれば普通に人がいるし...


「...ここは、天界なのか?」


「違う。ここに住んでる奴らは普通に飯を食って、息を吸って、そんでいつか死ぬ。シャキラの言うモンテ様ってのが神様なら、ここにはいない。だからといって、シャキラが元々住んでいた世界とも違う。そうだな、シャキラが住んでいた世界から見れば、ここは全く別の世界。異世界ってな所かな。」


「...そんな...」


 そんな...そんな事...

 こんなに、こんなに思い焦がれていたのに。

 モンテ様は、私をモンテ様のいない所へと導きなさった。

 私は、何か罪を犯していたのだろうか。


「シャキラ。この世界には魔物というのが出るんだ。人を襲って食らうことが本能に刻まれた凶悪な化け物だ。俺たちは魔物に怯えながら、日々を送っている。」


 モンテ様がいないという事実を知り放心状態の私に構わず、マークは話を続ける。


「だが、そんな凶悪な魔物を討伐する事などを生業にしている者達がいる。...冒険者だ。ここは、冒険者が集う建物なんだ。わかるか?」


「...はい...」


「あぁ、良かった。そんで、世界にはダンジョンと呼ばれるものがある。まぁ簡単に言えば魔物の巣窟だな。そのダンジョンの中でも特別大きくて、強力な魔物が蔓延っている所が四つある。それを俺たちは四大ダンジョンと呼んでいるんだ。さっき話した冒険者にとって四大ダンジョンを制覇する事は夢でもある。さぁ、ここで何か感じる事はないか?」


「冒険者...ダンジョン...そうか。」


 私がこの世界へ飛ばされた理由。

 私が冒険者になり、凶悪な魔物が蔓延るこの世界、その元凶であるダンジョンを叩き潰す。

 そして、この世界に平和をもたらし、強くなった私を食べてもらう。

 それが、モンテ様が私をこの世界へと導いた理由。

 それが、私に課せられた試練。

 で、あれば私は...


「マークさん。」


「ん?何だ?シャキラ。」


 私は決意を固め、真っ直ぐにマークさんの目を見据えた。


「私、冒険者になります。」

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