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疾走

 歩みを進めれば進めるほどに周囲は暗くなっていく。

 肌は冷気を敏感に感じ取り、薄らと鳥肌を立てている。

 足音は不気味に反響し、洞窟の奥へと消えていく。

 あれだけ天界へ向かう事を楽しみにしていたのに、洞窟の奥深くに広がる闇の中へと足を動かす度に、心細さが胸の中を染め上げていく。


 私はこのまま天界へ辿り着く事なく闇に捕らわれてしまうんじゃないか...

 そう思わせるには充分なほどに、洞窟の奥はあらゆる物を呑み込んでいく。


 ふと、後ろを振り返る。

 入口の光は随分と小さくなっていた。


「...今は前に進むだけだ。」


 私は軽く両頬を叩き、気合いを入れ直してから前だけを見据えて再び歩き出した。




 もう、どれ程の距離を歩いただろうか。

 洞窟はおろか、自分の体すらそこにあるのかどうかも分からない程に闇は深く拡がっている。


 私は前へと進めているのか、私は何処へ向かっているのか...もしかしたら、私はモンテ様に認められず、天界へ辿り着くことなくなく死んでしまったんじゃ...


 いや、土を踏みしめる足裏の感触、心臓の音、喉の乾き。

 私は生を感じられている。


 そう、これは試練なんだ。

 モンテ様は私が御許へと向かう資格があるのか試されておられるのだ。


 モンテ様は闇を討ち滅ぼし、世界に光を与えてくださった。

 きっとこの闇の奥には眩い程の光があるに違いない。

 目の前の闇に囚われず、その奥に潜む希望を信じよと。

 そういうことですね。モンテ様。


「でっ、あれば惑う事無しっ!!」


 私は叫び、闇の中を駆けた。

 モンテ様は私の信仰心を試しておられる。

 ならば、私は全力でそれに応えるまで。


「モンテ様っ!私は即ち神の下僕っ!このような薄汚い闇に我が信仰心は乱されませんっ!」


 息を乱しながらも声を上げる。


 我が信仰心を捧げるのだ。

 私の爪先から頭の天辺まで、全てをモンテ様に捧げております。


 駆ける、駆ける、そして...


「見えたっ!光が見えたっ!」


 暗く拡がる闇の向こうに、一筋の光が射し込んでいる。


 出口だ!即ち天界への入口だ!


 疾れっ!疾れっ!疾くっ!

 脚を動かせっ!

 今っ!そちらにっ!


「今っ!そちらへ参りますっ!モンテ様ぁぁぁぁーーー!!」


 私は光の門を潜り抜け、真っ白な輝きに包まれた。




「うぅ、眩しくて...見えない。」


 長い時間、暗い洞窟の中を歩いていたからだろうか、射し込む眩い光に目を瞑る。

 下を向き、ゆっくりと瞼を開いて少しづつ目を光に慣らしていく。


 んっ...ここは...茶色い地面と...緑...


「ここは...森の中?」


 ゆっくり顔を上げると、鬱蒼と茂る木々と苔の生えた地面が目の前に拡がっていた。


「森...にしても、この木...幹が細くて背が高い...葉っぱも細い...こんな木、見たことない。」


 森は森でも、こんな雰囲気の森は見た事が無い。

 初めて見る土地...つまり...ここは天界!


「やった...ここは天界なんだっ!やった!...でも、モンテ様はこんな森の奥にいらっしゃるのだろうか...」


 うーん、確かに神々しい風景だけれど...何かイメージしてた所と違うような...

 とにかく、たくさん歩いたから喉が渇いた。

 カラッカラの干し肉じゃあモンテ様に突き返されちゃうもんね。辺りに水は...

 あっ!ちょうど小川がある。水も澄んでいて飲めそうだ...


 私は小川の水を両手で掬い、口の中へと流し込んだ。


「ップハァー!あぁ生き返るわぁ...それにしても、ここは本当に天界なんだよね...もしかして、私が今見ているのは幻で、気づかない間に死んでるんじゃ...」


 そっと手を胸元に添える。

 掌からはドクンッ、ドクンッ、と波打つ心臓の鼓動が響く。


「生きてる...」


 はっ、そうだ。ここでのんびりする暇は無い。

 早くモンテ様の許へ行かないと。

 まずは森を抜けないと何も分からない。きっと近くに高い山かモンテ様の住む綺麗な屋敷があるはず...

 うん、まずは川を下ろう。


 私は小川に沿って下流へと歩いていく。

 不安定な足場を物ともせず、木々の間を掻き分けていく。

 地面に落ちている木の実や、木の虚に生えたキノコなども、どれも初めて見るものばかりだ。


「うぅ、それにしてもここ、寒い。」


 洞窟の中を走ってかいた汗が引いてきたのもあるが、そもそもの気温が低い。

 ネクト村も夜は涼しくなるが、ここまで冷えることは無かったなぁ。


 小川を下り始めてからしばらくすると、視線の先に木々の切れ間が見えた。


 森の出口だ...


 鬱蒼と茂っていた森の先には広い平原が拡がっていた。


「山は!?それか屋敷!?んっ?あれは...」


 平原の奥には街道が通っており、その先にはうっすらと石垣に囲まれた何かが見える。


「あれだっ!きっとあれがモンテ様の屋敷だっ!」


 私は石垣を目指して街道を駆けていった。


 あぁ、遂に!遂に!モンテ様ぁ


 石垣は徐々に近づいてくる。

 そして、少しづつ石垣の中の様子も見えてきた。


「屋敷というより、町?なのかな?そうか、モンテ様は神々を招待して宴を開いているんだもの。きっと町の中にモンテ様の屋敷があるんだわ。」


 石垣に囲まれた町はもう目と鼻の先にあった。

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