4.何があったのかは知らんが、革紐を手に入れる。
ああ、やっぱりな。どうせこうなんじゃないかと思ったよ。
「フゴーフゴー!」
俺の目の前にいるのは気の狂ったドラゴンだった。少し前に話を戻すと
☆
「鹿を狩る!? 絶対にダメだ! 気は確かですか!? 森の住人を殺して革紐にするなんて!」
「ああ! ウッドエルフはいつだってこうだ!」
「当たり前です!」
「じゃあ何で『手伝う』なんて言ったんだ?」
「狩られて当然の獲物がいるからですよ!」
「ああ……嫌な予感がする」
「食物連鎖の輪廻からそれたる者が、それを狩る事を我等ウッドエルフは許せない。だが、それたる者がそれたる者を狩るのは迷惑をかけないのならば好きにすればよい。むしろ、食物連鎖の輪廻に害をなすものであったならば歓迎なのだ!」
「で、獲物はなんだ?」
「タレダルの頂より追放されし者、エリノール王国でさんざん暴れまわった後、行方をくらました大罪人、そして考える事も話すことも出来なくなった狂気のドラゴン!」
「──シギャャャャッッ!」
「お、おい! まさかその後ろにいるのが──」
「──そのドラゴンは、禁煙エリアであるのに堂々とタバコを吸い、ゴホゴホ周りが言っててもむしろ吸う。エスカレーターは絶対開いている方に堂々と居座る。具合も悪くないのに敢えて優先席に座る。すぐそばに駐輪エリアがあるのに敢えて邪魔になる所に置き、AさんにBさんの悪口を言ったら、次にはBさんにAさんの悪口を言いふらす! ちょっと腹が立つ事があると関係ない人、友人であっても困らせるような事、嫌がれる事をむしろやれと、それを是とする態度! 友人の有難い指摘にも拘らず逆切れ嫌がらせのオンパレード! 自分で判断せず、他人に無理やり判断させておいて、都合が悪くなると平気で判断した人を悪者扱いする! 立場の弱い飲食業に対する態度は『俺を神だと思え』と言わんばかりのモンスタークレーマーぶり! たかがちょっとしょっぱい位で普通、『お前、食ってみろよコレ。あ?』なんて言いますか!? ──おお! まさに外道!」
「お、おい! もういい! 愚痴はわかった! てかお前、その後ろにいるのがそのドラゴンなんじゃないか!?」
「え?」
「シギャァァァァァァァアアアア!!」
「──うぎゃぁぁぁぁぁ!?」
「フゴーフゴー」
ああ、やっぱりな。どうせこうなんじゃないかと思ったよ。と、現在に至る訳だ……。しかし、このウッドエルフに一体何があったのか……。まぁとりあえず、革紐が目の前にいる。ちゃっちゃと狩り倒すか。
俺は背中に背負っていた両手斧を手に取り軽く構える。ウッドエルフは後方に下がって弓と矢を準備する。俺は前に出て臨戦態勢に入った。
しかしこのドラゴン、近接戦闘を好むのか? 離れず飛ばず、ブレスも吐かない。
俺は、貴重な素材をふんだんに使った、俺なりの最強両手斧でドラゴンの爪、牙、尻尾による激しい攻撃を捌き切り、難なく顎にアッパーを食らわした。
「グゴッッ!?」
しかしこの期に及んで、どうやらウッドエルフは何か言い足りないらしく叫び散らす。
「──し、しかもこのドラゴン……散々周りに嫌がらせしておいて何一つ取り柄のない、ただの木偶の坊!!」
ウッドエルフの謎の怒りが矢となって、このドラゴンの胸に突き刺さった!
「グァァァァァァ!」
ぬぅ……確かに近接戦闘しかしてこない……。だが、大変申し訳ないが、そろそろ革紐になってもらう。
俺はトドメの一発を200年間槌を叩きつけてきた腕力に物を言わせて、『ズドンッッッ!』と、このドラゴンの頭頂部にぶちかました。幸運な事に、こうして俺はドラゴン一頭分の貴重な素材を手にしたのだった。
ウッドエルフはすっきりしたようだ。
「ヒーフーヒーフー! ハハ! ざまぁみろ! このクソドラゴンめ!」
「…………」