3.馬鹿にならないヒルト(柄)。
「ンゴッ……」
自分のいびきで思わず起きてしまった……。
水車用のダムの脇に、オークがある。オークと言ってもモンスターのオークじゃないぞ。木のオークだ。俺はその木漏れ日の下で寝た。鍛冶場のすぐ裏は森だ。そこをどうにも上手く通り抜けるささやかな風があってだな。心地よくてつい……。
さて、刀身はあと研ぐだけだ。本来であればここで研ぎ師の出番だが俺は一人。足で漕いで回る砥石に剣を適切に当てて研ぐ。日本刀の様に表面をツルツルにしてピカピカにするわけじゃない。だが俺の性格上、ピカピカにしないと気が済まない。
と、言う事で様々な砥石を使って綺麗に表面を仕上げて鏡の様にしてしまう。一瞬で日が暮れる。
適切な手入れを定期的にしないとどうせすぐまた曇ってしまうのにな。日本刀の様に手入れグッズもない西洋の剣にはもったいない工程だ。西洋の剣は、あえて雑に研ぐと言うのも粋かもしれない。だが俺は錆止めの油を薄く塗って置いた。
因みに刀身の根本となる部分には指二本分以上敢えて研がない。後述する。
さて、次はヒルト(柄)だ。ガード(鍔)、グリップ(握り)、ポンメル(柄頭)で構成される。
刀身の作成よりもこっちの方が長くなるかもしれない工程だ。装飾なんて入れた日にはとんでもなく時間のかかる工程と全く馬鹿にならない。だが俺はそこまで時間をかける気はない。本来は研ぎ師と同様専門の職人に外注したりする。
シンプルイズベストで行く。
ガードは握る手を保護するが、重心を整えたり、握り心地にフィット感をもたらしてくれる。大きければ腕に当たって邪魔だし小さすぎると保護の意味がなくなる。重すぎると全体重量が増して必要筋力を要求するし、軽すぎると強度が無かったり重心の安定感を出せない場合もある。
丁度いい大きさと重さを探求する。
今回はシンプルに十字で行こう。ガードで受けた刃が端からこぼれない様、両先端に膨らみを持たせる。角の立つ部分を全て潰して丸みを持たせ、腕に当たった時の負傷を未然に防ぐ。
それと中にはこのガードに人差し指を絡めて持つ人がいる。そう言った人の為に、あえて刀身の根本は研いでいない。そして指を絡めやすくするために丸みを持たせる。
これはガードの意味を無くし指を損傷するリスクを負うが、利点として重心上に握る手が来るため、素早い振りを実現するのだろう。ならそれを想定して剣を作るべきだが、道具の使い方は人それぞれだ。
だから俺は受注生産が良いのだ。
刀身との建付けを確認しながらガードを作る。刀身から柄の芯となる部分に至る直角の部分をショルダーと言い、そことガードが上手く重なるようにヤスリ等で調整する。ここをきっちりやらないと結果、刀身と柄が曲がってしまい情けない事になる。
ガードを土台に括り付け、芯を通す穴を手押しドリルで開ける。ドリルで掘る特には一気にやらない。徐々に口径を上げ、削る時も半回転に4分の1回転戻してと削りカスなどの詰まりを防止する。切削用の油も忘れずに。
芯を通す穴だけだと衝撃でガードが回ってしまうので、刀身のショルダーがガードに食い込むよう削り出す。反対側にはグリップが回転してしまわない様に突起か凹みを設けておく。
ああ、次はグリップ(握り)だ。今回は手の込んだことはしない。グリップ本体は単純に木製にしておく。木製と言っても出来るだけ硬めで耐久力のあるものを選ぶ。
俺はウッドエルフにも認められている。お蔭で、貴重な材料である、エントの端材が手に入る。エントはたまに、余分に生えた枝を自ら落す事がある。それを拝借するのだ。
エントは知的植物である為(非常にのんびりだが)、斬り倒すとウッドエルフに殺人罪で処刑されてしまう。だがこれなら問題にならないし、ウッドエルフもこれを大いに利用している。
エントは長い年月をかけて成長する為、その木材の密度は非常に高く硬くて丈夫なのだ。個人的に重宝する素材だ。
さて、グリップは二個作る。縦に並べて間に少し太めのリングを装着するのだ。これは片手で持った時のすっぽ抜けを防止する。両手で持った時もグリップ力を上げてくれる。最終的なすっぽ抜けを防ぐのはポンメル(柄頭)だが。
表面をヤスリがけし、綺麗につやを出させてニスを塗るのもいい。見た目が綺麗だ。だがこれだと滑りやすい。剣を使う場面は命懸けの場面が多いだろう。信頼できるグリップの方が良いに決まっている。やはり革や革ひもを巻く事にするか……。だがあいにく持ち寄りが無い。
狩りに行こう。
「──手伝いますぞ! 鋼抜鍛雷殿!」
「またお前か……」