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22.クイアハエンのホー。

 俺は農民たちからボロい農具を回収した。さて、始めるか。


 鍬は地面に先端を突き刺し、てこの原理で土を掘り起こす。また、土を盛ってその天辺で作物を育てたり、逆に植えた作物の周りに土を盛ったりする。その用途は意外に様々であるが、これぞまさに農具の代表ともいえる印象的な形状をしている。


 剣は人体、斧は木材、そして鍬が相手をするのは土だ。


 不戦勝の剣は、ヒルト(柄)のガード(鍔)に重心を持ってきたが、それは相手が軟目標であると想定し、威力よりも小手先の素早さや取り回しの良さを優先した為だ。


 しかし斧や鍬の相手はどうだろう?


 仮に、木や土に剣を使うイメージが沸くだろうか? 木の場合、よほどマッスルな剣士が、ファンタジー全開で振らない限り、剣で木を切り倒すのは相当骨の折れる作業だと想像がつくだろう(俺なら余裕だが)。普通なら斧を使う。


 この差はなんだ? 単純に重心の差だろう。


 斧は先端に重心を持ってきている。胴体から腕、得物を持つ手、得物から獲物の先端へと、円運動の中心から最も離れた得物の先端が、最もスピードの乗る部分となる。そこに出来るだけ重量を持たせる事によって、高い運動エネルギーを持たせる事が出来る。つまり高い威力が出せるという事なのだ。


 鍬も同様だ。なんてったって相手は土だからな。大地に突き刺さらない鍬なんぞ、大地の精霊に鼻で笑われてしまう。因みに土に含まれる砂や砂利と言うのは、実はかなり硬度の高い鉱物が混じってたりする。


 さてさて、今回サウスオークウッドの自由農民が持ってきた鍬を見てみよう。先端の材質は糞金属。論外だ。そして営業文句は『軽量化』とか言って売りつけるのだろう、先端部分の首が細くなった柄(金属部分が取り付けられた根元の柄)。


 これは喧嘩売ってるのか?


 この鍬、構造上金属部分が先端に集中している為、重心は先端にあると言えるからそれは良い。だが、その周辺は、高い速度と重量で、高い運動エネルギーを持つ部分であり、大地に突き立てた時、最も衝撃エネルギーを受ける部分でもある。そこを細くするとか……明らかに喧嘩を売っている。


 これでは折れて当然だ。もし、これを作った奴が俺の目の前に居たら殴り倒してやる……!


 金属部分は製錬からやり直し。柄は太くて持ちやすく、真円柱ではない楕円柱形状で作り直しだ。


 俺は集めた農具の金属部分を取り、ルーン製錬炉を使って製錬のやり直しを行う。そして、メレアインが木材加工を手伝ってくれるそうだ。しかもなんと『簡易組み立て式足漕ぎ型木工旋盤』で木材を加工し始めたのだ……!


「お、おい。それは……?」


 俺の問いに彼女が得意げになる。俺はますますウッドエルフが判らなくなった……。木の保護者が、木を効率良く加工する道具を使うなんて……。


 因みに旋盤とは様々な種類がある。彼女の組み立てた旋盤は木材の両端を挟んで掴み、回転させ、ノミを当てて効率よく削り出す事が出来る物だった。


 彼女は俺のやってほしい加工を言わずとも理解し、見事に柄を作り上げてゆく。俺は唸る。


「う~ん……」


「こりゃぁ~ぶったまげたでの……!」

「木の枝が、見る見るうちに棒になっただよ!」

「丸1日にかかる作業が、あっという間だ……」


 見ていた農民達が驚嘆の声を上げる。若干俺は面白くなかった。が、逆に俺の人を見る目は確かだったと考えを改めた。


 ──流石、俺の見込んだ事のある共同経営者だ。俺の目に狂いはない。


 俺は製錬を急ぐ。そして出るわ出るわの不純物。因みに職人ってのは不思議で、他の職人に不手際があれば、文句を言うのが習わしだ。


「なんだこの金属は……! 不純物だらけじゃないか!? え~? 適当な仕事しやがって……!」


 ま、こう言うと、事情を知らない連中は大抵『へ? あ、そうなんだ……』て顔をする。


 俺は、製錬をしながら、元から取っておいた鋼のあまりを熱しアダマンタイトコートを施して、時間効率よく最初の鍬の先端部分を作った。メレアインはそれを受け取り寸法を取る。そして木材加工の仕上げに入る。太く頑丈で、持ちやすい形状に仕上げた後、不思議な魔法で木材の表面をなだらかなレジン(樹脂)で覆って行く。俺は問う。


「なんだ? 初めて見るな……え? 色も付けられるって?」


 彼女は柄を指の先端でなぞると、レジンで覆われた柄はまるで宝石の様な透き通った色へと変化していった。農民共は声を上げた。


「「「はぇ~!?」」」


 ぬぬぬ。これは負けてられない。俺は先端部分に漢字で『百錬成鋼、病気平癒、五穀豊穣』と彫りを入れ、魔鉱石粘土でそれを埋めると指でなぞって盛大に火花を散らした。輝くルーンワード。ふ~ん、どうだ……?


「「「はぇ~!」」」


「ふふんっ」


 作業を開始してからそれなりに時間が経ったが、農民達は飽きる事無く作業を覗いていた。そして最初に完成した鍬を最初の依頼主に手渡した。メレアインは珍しく声に出してその鍬の名を命名する。


「サウスオークウッド、クイアハエンのホー」


 クイアハエンのホー……生ける大地の鍬か……。鍬のルーンワードとレジンの柄は、持ち主の手に渡ると途端に美しくうっすら輝きだす。驚く農民達。どれどれ分析しようか。


「「「──おぉぉぉ!」」」


「おっ!? オラ、なんだか無茶苦茶強くなった気がすっぞ!」


「オヤジ、強そうっ!」


「うほっほ~! 痛かった腰もなおったど! ひゃっほ~い!」


「「「はぇ~! こりゃ驚いた!」」」


 ストレングス(筋力)とバイタリティー(体力)の伸び率がデカいな。(人体、畑共に)耐病耐毒が付く上に各部損傷の治癒、それとユニークスキルで持ち手と畑のレベルも上がりやすくなるようだ……。耕せば耕すほど強くなる……? それと、もしかしたら作物にも良い影響が出るかもしれんな……。


 すると農民の女が強く嘆願する。


「オラも頼むよ! オラの鎌、全然切れなくなっちまっただよ!」


「「「オラもオラも!」」」


 ふふんっ! さて次は鎌か。

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